人間が生きるために最重要な器官のひとつである「肺」だが、肺炎になれば体中の酸素が不足し多機能不全となり、死に至る。また、一度傷ついた肺は元には戻らないため、さまざまな習慣によって傷めないことも、重要視される。
肺は元通りにはならないものの、残っている元気な部分を鍛えて、呼吸機能を回復させることはできる。医療ガバナンス研究所理事長で内科医の上昌広さんが言う。
「肺の再生が難しいのは間違いないですが、『呼吸器リハビリテーション』という概念は確立しています。『廃用性萎縮』といって、人間の体は動かさないとどんどん衰えていきますが、それは肺も同じ。『口すぼめ呼吸』のような簡単なことでも、肺の機能を高めることにつながります」
使わなければ肺は衰え、負のスパイラルに陥る。みえ呼吸嚥下リハビリクリニック院長の井上登太さんはその鍛え方をこう説く。
「3つのポイントがあり、体を動かすこと、血液の循環をよくすること、ストレスをためないことが重要です。笑うことがいいとよくいわれますが、メンタル面だけでなく呼吸が大きく行われるので、肺を動かす筋肉が鍛えられ、たんを押し出す力も強くなります」
初期段階で診察を受けることも重要だと話す。
「炎症の初期段階であれば投薬も有効なのですが、長期にわたって苦しい状態をがまんして動かないでいると筋力が衰え、循環も悪くなり、ストレスもたまってしまう。その結果、重症化しやすいのです。早めの受診をおすすめします」(井上さん)
さらに、肺をしなやかにして、肺機能を高める運動もある。呼吸生理学の専門家で、イラストで紹介している「呼吸筋ストレッチ」を提唱する東京有明医療大学学長の本間生夫さんに聞いた。
「呼吸は数分間途絶えるだけで死に至る、きわめて重要な生理現象です。しかし現代人は、浅くて速い“悪い呼吸”をしている人がほとんどです。呼吸機能の老化は30代から始まるので、早めに対策を始めることが重要です」
呼吸機能の老化が起こると、吸った空気を吐ききることができなくなり、肺の中に空気が残りやすくなってしまう。
「『機能的残気量』といって、肺に残る古い空気が多くなるのを防ぐには、胸郭(胸の周囲を囲む、かご状の骨格)全体を取り囲む『呼吸筋』 の働きを柔軟にすることが重要です。肺そのものは、自ら動く機能を持っておらず、周囲にある呼吸筋が収縮運動を行うことで肺を動かしているのです」(本間さん)