2020年のプロ野球がようやく開幕。新型コロナウイルス対策のために、無観客試合でのスタートとなる。これまでに経験したことがない……と言われがちだが、かつてのパシフィック・リーグの試合では、球場の客席がガラガラ、ほぼ無観客状態も当たり前だった。
数少ない観客の目に、選手たちのプレーはどう映っていたのか。1970年代のパ・リーグを熱烈に応援した大阪の料理人・神田川俊郎氏(81)が語る。
「南海ホークスのノムさん(故・野村克也氏)と親しくさせてもらっていたので、大阪球場によく行きました。ミナミのど真ん中の狭い敷地内にあったスタンドが急勾配のすり鉢球場で、キャッチャーミットに入ったボールの音が響いて迫力がありました。
スタンドにお客さんがほとんどいないので、プレーの音がよく聞こえたことを覚えています。打球の音を聞けばスタンドインするか、フェンス前で失速するかわかったし、ミットの音でピッチャーの調子もわかりました。グラウンドの音を含めて観戦していた感じやね」
静寂に包まれた球場で、投手が「打てるものなら打ってみろ」と渾身の直球を投げ込み、打者がフルスイングで応える。野球を愛する観客が固唾をのみ、真剣勝負を見守る。それが“ほぼ無観客試合”の醍醐味だったのかもしれない。当然、ファンの目は肥える。
1970年に南海に入団し、1992年に44歳で引退するまで、パ・リーグ一筋でスラッガーとして活躍した門田博光氏(72)が振り返る。
「少ない観客は野球が本当に好きなコアなファンばかりでした。まずいプレーをするとすぐヤジられたし、優勝争いの天王山のような特別な試合では、それまでがウソのように、球場に入り切れないほどのファンが詰めかけました」