雀百まで踊り忘れずというように、いったん覚えた悪癖は年を取っても改めづらいと言われる。そのことわざどおり、同じ容疑で繰り返し逮捕される詐欺師は少なくないが、結婚詐欺、投資詐欺など得意分野のなかで繰り返すのが特徴でもある。騙す商材も農作物、金券、家電など得意ジャンルにこだわり続ける、奇妙な職人気質が見られていた。ところが、最近は詐欺のボーダーレス化がすすみ、同時に凶悪犯罪へ転じるケースが増えてきている。ライターの森鷹久氏が、詐欺師や詐欺グループの変質についてレポートする。
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人気のゲーム機「ニンテンドースイッチ」の買い占めを企む「転売ヤー」と呼ばれる人たちについて以前取材し、記事を書いたことがあった。しかし詐欺師たちはさらにその「先」へ進んでいたのかもしれない。そう思わせるある事件について、大手紙の社会部記者が解説する。
「SNS上に、ニンテンドースイッチが購入できます、などと書き込み、返信してきた男性から現金をだまし取ったとして男が逮捕されました。男は以前、入手困難なライブなどのチケットが購入できるといって同じ手法で金をだまし取っていたようですが、コロナ禍でライブは行われていない。そのため、巣篭もり需要を見据え、詐欺に使うネタを人気のゲーム機に切り替えたようです」(大手紙社会部記者)
ニンテンドースイッチなどの人気ゲーム機は、新型コロナウイルス感染拡大を防ぐための自粛により価格が急騰。転売ヤーたちによって買い占められたゲーム機が、定価の1.5倍から2倍程度で取引される事例も少なくない。少し前までは品薄だった「マスク転売」と同様、社会問題とも言われている。
詐欺師というのは慣れた商材を扱い続けるもので、客層が異なるものにはあまり手を出さないのが通例だと言われてきた。チケット詐欺は、実は「被害者が泣き寝入りしやすい」と言われており、その証拠ではないが、女子大生や主婦といった犯罪に無縁な人たちがチケット詐欺によって逮捕されるという事案も頻発している。チケットのようにゲーム機で詐欺をやると「なぜか」即通報された、というのが今回の事例だ。扱う物品について、ある程度の知識を蓄えておく必要があるし、その物品を欲している人たちの年齢や属性を把握し、摘発リスクも考えておかなければ、詐欺は成功しないのである。
ところが現在の彼らは、「コロナ禍」に乗じて活動分野を広げざるを得なくなっている。奇妙な言い方だが「業務」の転換を企図しているというのだ。
コロナ禍以降、スマホやパソコンに送られてくる「迷惑メール」が増えたと感じる読者も少なくないのではないか。これも詐欺師たちの「業務の転換」によるものだと説明してくれたのは、かつて特殊詐欺集団に属していた経験のある、東京都内の元暴力団員G氏(40代)。
「いわゆる詐欺電話のかけ子たちの仕事が無くなった。社会が動いていないこともあり、役所や警察のなりすまし電話をしても辻褄が合わなくなるからです。在宅勤務が増え、皆が外出を控えるなかで、得意先へ届ける書類を無くしたとか交通事故にあったなんて話は信用されない。だったら他の仕事をさせればと思うかもしれないが、今ではかけ子の多くは摘発を恐れ、日本の司法当局の力が及びにくい海外にいる場合が多い。他にやらせる仕事もないから適当な迷惑メールを送りつけ、引っかかる人を待っている。電話と比較すると雑な方法で、成功率は低いはずです」(G氏)