「いけないとわかっていても、子どもへの怒りを抑えきれず、我が子に手をあげてしまう」「近所で子どもが激しく泣く声が聞こえるが、通報すべきなのか」──後を絶たない児童虐待に歯止めをかけるため、体罰を禁止する「改正児童虐待防止法」が今年4月に施行された。
しかし、厚生労働省によると、全国の児童相談所が1~3月に自宅訪問や一時保護などの対応をした児童虐待件数は、前年に比べ1~2割増となった。コロナ禍の直接の影響は不明なものの、休校が続いたり在宅ワークにより子どもと接する時間が増えたりしたことでストレスがたまることで、DVや虐待の増加しているのではないかと懸念されている。
DV被害者のためのシェルターでDV被害女性の支援に関わり、女性のメンタルケアの専門医として活動する精神科医の加茂登志子氏が語る。
「子どもへの体罰はしつけの一環として長い間日本で容認されがちでしたが、今年4月から、法律で明確に禁止されました。昨年の時点ですでに58か国が体罰を禁止しています。日本では先進国の中でも体罰についての認識がかなり古いほうなのです。でも、昔ながらの子育ての方法やしつけにたいする考え方を受け継いでいて、苦しんでいる親子もたくさんいるようです」
毎日、言うことをきかない子どもに大声を出したり怒鳴ったりで嫌になってしまうという親は少なくない。そんな親への処方箋はないのだろうか。
「私のところに相談にくる親子には、東京都児童相談所でも採用されている、PCIT(Parent Child Interaction Therapy=親子相互交流療法)という心理療法を使った育児スキルをご紹介しています。科学論文でその効果が認められたエビデンスのある育児スキルです。虐待リスクのある家族や発達障害お子さんのいる家族にも効果があることがわかっています」
言うことを聞かない子どもにはつい怒鳴ってしまいがちだが、加茂氏は著書『PCITから学ぶ子育て』の中で、8つの「効果的な命令のルール」を紹介している。
「その8つは、『直接的に命令形でズバッと伝える』『肯定的な言葉で』『1回に1つだけ』『具体的にしてほしいことをハッキリと』『発達年齢を考えて』『ふつうの声で』『前後に説明して理由を理解させる』『必要なときだけに』というものです。