ドラマは時代を映す鏡、その最先端で支持される作品には共通点が垣間見えることも珍しくない。作家で五感生活研究所代表の山下柚実氏が指摘する。
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新型コロナの影響で撮影休止となった朝ドラ。すでに撮影ストックも尽き6月29日から再放送に入るというアナウンスがありました。感染症拡大という100年に一度の出来事だからドラマが変則的になるのも仕方がない。そして今週(56~60話)は特別企画「アナザーストーリー」、いわば本筋以外のお話を紡ぎ合わせるショートストーリー編が流れました。ただこちらはコロナの影響というより、当初からスピンオフを挿入するという計画がなされていたようです。
「アナザーストーリー」のスタートは、事故で亡くなった音(二階堂ふみ)の父親、安隆(光石研)の物語から。白装束、頭に三角形をつけお定まりの“あの世”ファッションのまま現世に蘇ってくる父。その姿に、つい笑いが出てしまう。一見するとバカバカしいコント風です。
でも、白装束は「お約束」を可視化する仕掛け。家族には父の姿が見えるけれども他人には見えない。という設定を一瞬にして際立たせるための衣装です。見える人と見えない人がいるからこそ、そこにすれ違いや勘違いも生まれ、笑った後にはしっかりと泣きが入る。
かつて、幼い音が父と一緒に食べたお団子。親子でもう一度味わうシーンに心を揺さぶられた人も多かったはず。幼少期がフラッシュバックされ、音は目をうるませて父に抱きつく。さすがは二階堂さんと光石さん、じんわりと沁みてくる優しいシーンでした。続けて、母(薬師丸ひろ子)の素っ頓狂だけれど温かい人柄や、夫婦で助け合って生きてきた絆も15分という短い時間の中に浮かび上がりました。
本編の中に突如挿入されるスピンオフは、これまでの朝ドラでもありましたが、中途半端に入ってきて浮いてしまったり、ドタバタの空騒ぎになったりと違和感も。しかし今回は心が温まるポイントを外さず、各回をコンパクトにまとめあげ、伏線の回収も上手。さすが『サラリーマンNEO』の演出陣だけあるな、と唸らされました。
そもそも『エール』というドラマは、本編においても単純なファミリードラマではありません。紋切り型に陥ることなくコミカル、シリアス、ミュージカルと異質なものを組み合わせる手腕に長けています。
例えば音を演じる二階堂さんの個性を最大限のびのびと弾けさせ、夫・裕一を演じる窪田正孝さんの引っ込み思案かつ全力で音を支える力強さをカリカチュアして描く。スタートから2ヶ月半の間に、味わいのある不思議な夫婦像が浮かび上がってきました。
また、ミュージカル的要素も随所に取り込み、歌が披露される場面もたびたび。喫茶店「バンブー」の中で「劇中劇」が展開されたりと演出も凝っています。シンミリあり、ドタバタあり、歌ありの複合型、いわば「ハイブリッド」なドラマ作りはもしかしたら新たな潮流なのかもしれません。