コロナ禍の株主総会の中でも話題をさらったのが、6月11日のトヨタだった。豊田章男社長が不意に「涙」を見せたのだ。
トヨタは5月の決算発表で「5000億円黒字」の業績予想を公表。前年比8割減の厳しい予想とはいえ、それでもある株主から「(その予想は)あてになるのか」と、楽観を疑問視する声が上がった。豊田社長は、「地道な努力を続けてきた世界37万人の従業員ら全員で作り上げた見通しだ」とその質問に答え、目を潤ませたのである。
豊田社長は窮地のたびに涙を滲ませてきた。2009年、米国でプリウスのリコール問題が起きた時は、袋叩きとなった米議会公聴会で毅然とした態度で謝罪。その後のディーラーや従業員との会合では「公聴会で私は1人ではなかった。あなた方と一緒だった」と声を詰まらせた。
とりわけ欧米では「経営者が公の場で感情を露わにするのはマイナス」(在米ジャーナリスト)と言われているだけに、世界一の自動車企業トップの“涙”は話題を集めた。
2期連続の減益見込みとなった2017年の株主総会でも、「これからも持続的な成長に向けて努力していきたい」と涙ぐんだ。
社長の涙のたび、ピンチを脱して大きくなってきたトヨタ――涙は豊田社長にとって、従業員らを鼓舞する“芸”なのか。トヨタを長年取材する、経済ジャーナリストの片山修氏がいう。