異例の無観客試合で開幕した2020年プロ野球。無観客試合は選手にどんな影響をもたらすのか。かつて、球場に客がまったく集まらず、親会社の社員を動員してもスタンドには500人程度しかいなかったというパ・リーグの試合を経験してきたOBに聞いた。
「客が入らなかったので、選手はグラウンドのプレーに集中していましたね」
そう振り返るのは、1971年に東映フライヤーズに入団し、翌年南海ホークスに移籍した江本孟紀氏(72)だ。
「客を呼ぶことで給料が上がるという感覚がなく、グラウンドで結果を出せばカネになると信じて、必死にプレーしていました。今の選手のように客を過剰に意識しなかったから、ヒーローインタビューで『ファンのおかげです』と言う選手はいなかった。際どいプレーに激怒して、乱闘になることも多かった」
甲子園の優勝投手として1981年のドラフト1位で近鉄バファローズに入団した金村義明氏(56)も「観客に媚びない真剣勝負ゆえに乱闘があった」と指摘する。
「パ・リーグには『飲む、打つ、買う』を地で行く選手が多かったけど、ひとたびグラウンドに立てば真剣勝負だった。『やられたらやり返す』とばかりに熱くなることもしょっちゅうでした」
セ・リーグのように、ラッパや太鼓などの鳴り物の応援はなかった。だからこそ、豪速球がミットを鳴らす音も、それを強振して弾き返す打球音も響きわたった。