音楽誌『BURRN!』編集長の広瀬和生氏は、1970年代からの落語ファンで、ほぼ毎日ナマの高座に接してきた。広瀬氏の週刊ポスト連載「落語の目利き」より、電子チケットで視聴した「鈴々舎馬るこ独演会」についてお届けする。
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コロナ禍で大打撃を受けた落語界では、オンライン有料落語会の動きがどんどん活発化している。立川こしらの「こしらの集い」無観客配信や橘家文蔵の「文蔵組落語会」などは落語家主導の試みだが、「席亭が落語家に出演を依頼する」スタイルの配信落語会も増えてきた。「ご自宅寄席」なるイベントもその1つ。ZAIKOという電子チケット販売プラットフォームで木戸銭(プラス投げ銭)を払って視聴できる。4月25日には三遊亭わん丈、5月2日には桂宮治の独演会を配信した。
僕が観たのは5月3日の「鈴々舎馬るこ独演会」。1席目は親孝行でお上から褒美をもらった与太郎が飴売りを始める『孝行糖』で、前半もオリジナル演出満載で楽しいが、商いを始めた与太郎の馬鹿デカい声と物凄い形相による押し売り同様の「圧の強さ」こそ、馬るこの『孝行糖』の肝。こんなに暑苦しい与太郎は落語史上類を見ない。
2席目は、炭水化物と甘味が大好きで太り過ぎて妻に糖質を厳しく制限されている男が、財布を取り上げられ300円だけ渡されて、買い食いしないよう小学生の娘に見張られながら初天神に出掛ける『糖質制限初天神』。屋台の前で自らの半生を振り返り「一生懸命働いてきた私の唯一の楽しみが糖質なんです! 団子1本くらい買ってもいいじゃないですか!」と涙ながらに周囲に訴える場面がバカバカしくも素敵だ。馬るこの代表作の1つと言えるだろう。