人気の商品などを転売する人たちのことを、ネットでは蔑みの意味を込めて「転売ヤー」と呼んできた。最近は、転売してもうま味が無いジャンルの商品だと思わせるために、絶対に転売ヤーから買わないようにしようという呼びかけが行われることもある。一方で、どうしてもほしいのだから転売しているものを買っても仕方ないだろうという利用者も後を絶たない。だが、古物商の許可を得て商売をしている転売業と異なり、ネットで特定商取引法に関する記載も個人情報保護方針も表示していないような者を相手に商品を購入することには、たとえその商品がきちんと手元に届いたとしても危険が伴う。ライターの森鷹久氏が、転売ヤー利用後にカニカニ詐欺に遭うなど迷惑なことが続くのはなぜかについてレポートする。
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かねてより問題視されてきた「転売ヤー」問題は、特にネット上で要注意の存在とされてきた。それが今では、コロナ禍において必需品であったマスクや消毒液、巣篭もりする人が増え需要が増した人気ゲーム機などの転売騒動が起きたことによりテレビや新聞でも報じられ、ネットには疎い人も含めた国民の多くが知るところとなった。筆者はかつて、この「転売ヤー」に取材をしたことがあったが、彼らの言い分は「商社でも同じことをやっている」「ニーズに応えているだけ」といった感じで、まるで悪びれるそぶりも見せなかった。
転売ヤーたちは、ほとんどが合法の範囲内ではあるが倫理的にはどうかと思える手法を駆使し、莫大な利益を上げている。この現象は、転売ヤーからでも買ってしまう人たちが多くいることを裏付けているとも言えるが、ここに目をつけたのが「詐欺師」だった。
「チケットでも人気ゲーム機でもマスクでもいい。とてつもない需要があるということは、多少怪しくともそこに釣り針を垂らしさえすれば引っかかる人はいる。詐欺にはもってこいでしょう」
こう解説するのは、いわゆる「半グレ」と言われる組織に属し、かつてチケットの転売を生業にしていたという男性・江崎拓馬氏(仮名・30代)。最近も、人気アーティストのライブチケットを売ると言って金をだまし取るという事件や、SNSを通じて人気ゲーム機を購入したが商品届かないなど、転売ヤーに関連するトラブルがあとを経たない。ちなみに、チケットについては2019年4月から「チケット不正転売禁止法」が施行されている。
ただ、こうした詐欺や法律違反を除けば、転売ヤーたちが需要に応えているというのは事実であり、一定の存在価値もあるのではないかと思ってしまうような状況もある。福岡県在住の会社員・金井義文さん(仮名・40代)は昨年のクリスマス直前、子供が欲しがっていた人気ゲーム機を入手すべく、近くの電気店、玩具店を十数件も回ったが、どの店も売り切れ。ネットの通販サイトも軒並み同じ状況で途方に暮れていたところ、SNS上で人気ゲームが販売されているのを知った。
「定価が3万円ちょっとのゲーム機が、SNS上では5万円で販売されていました。割高ではありますが、子供に約束した手前なんとしても欲しく、藁にもすがる思いで飛びつきました。SNSでのやりとりを経て、指定された口座に入金。怪しい転売屋だし、もし詐欺だったらどうしようという不安はありましたが、無事に届いた。どうしても欲しい場合は、転売屋から買うのもアリだな…と」(金井さん)