新型コロナウイルスの流行をうけ夏の甲子園大会が予選も含めて中止になったとき、涙する高校球児の姿がいっせいにニュースで流れ、何らかの救済をという声が強まった。その声に後押しされてか、全国の都道府県で代替大会の開催が次々と決まっていった。仕事や人生がいまひとつうまくいかないと鬱屈する団塊ジュニアやポスト団塊ジュニアを「しくじり世代」と名付けた俳人で著作家の日野百草氏が、今回は、高3でレギュラーをつかんだ高校球児を子に持つ40代の父親が胸のうちに抱える、夏の甲子園大会中止への本音についてレポートする。
* * *
「誰もコロナなんか気にしてない。中止にする必要、あったんですかね」
千葉県柏市、柏駅のすっかり元通りになった日曜の混雑と嬌声の中、山倉哲さん(40代・仮名)はつぶやいた。改札で待ち合わせてステーションモール5階の喫茶店へ。同じ高校だったというが、私は山倉さんを知らない。学年も違うしマンモス校なので当然だが、どうしても言いたいことがあるとメールをくれた。最近は私のもとに告発や自身の告白などのメールがよく来るようになった。大方は真偽を含め対応の難しいものばかりだが、山倉さんは地元で同じ高校だというので会ってみた。それに柏は大好きだ。
「春どころか夏の高校野球も中止です。はっきり言います。私は父親として納得できません」
山倉さんは坊主頭で長身、なかなか威圧感がある。建設関係で仕事そのものはコロナの影響をほとんど受けなかったという。むしろ休業中の改装などで忙しかったとか。そんな山倉さんだが、三児のパパでもある。訴えたいことは野球部にいる高校生の長男のことだという。
「息子は一生懸命野球に打ち込んで来ました。もちろんプロになれるとか、そんなレベルでないことは私にもわかってます。でも3年生でようやく掴んだレギュラー、その年に大会がないなんてかわいそうで」
5月20日、全国高校野球選手権大会を主催する朝日新聞社と日本高校野球連盟は新型コロナウイルスの感染拡大を理由に夏の全国選手権大会と代表49校を決める地方大会すべてを中止した。甲子園の中止は米騒動の時と太平洋戦争の影響による中断以来である。コロナ禍の重大性をまざまざと見せつけられた思いだが、今となっては ―― という人もいるだろう。
「そもそもあの段階で店はどこも開いてたし、人出も戻ってた。判断早すぎたんじゃないですかね、プロ野球と同じように無観客でできなかったんですかね」
準備や予選を考えると時間的猶予はなかっただろう。甲子園球場はもちろん、各球場をすべてあの段階で使えたかどうかもわからない。コロナ騒動の収束は思ったよりも早かったが、あの時点ではアメリカの状況から第二波も心配されていた。
「そんなことはわかってます。でもね、レギュラーを掴んだ息子の最後の試合が台無しになったんです。バカな親だと他人様は笑うでしょうが、親ってそういうもんですよ」