ライフ

高齢者施設の食事に七夕の星形にんじん 苛つく娘と余裕の母

施設での楽しみは「食事」と答える高齢者は多い(写真はイメージ)

 父が急死したことで認知症の母(85才)を支える立場となった『女性セブン』の記者A(56才)が、介護の裏側を綴る。今回は食事に関するエピソードです。

 * * *
 外出自粛中の母の楽しみはサ高住(サービス付き高齢者向け住宅)の食堂での食事。ある日、昼食のオムライスを見て「気が利いている」と母。昔から心尽くしのものに必ず贈る賛辞だ。つらい独居からここへ来たときに同じ言葉をつぶやいていたのを思い出した。

◆誰かが自分のために作ってくれた食事は「うれしい」

 まだ緊急事態宣言中、家族の訪問も遠慮するよう要請されつつ、こっそり母の様子を見に行ったときのこと。ちょうど昼時だった。給食前の学校のように、サ高住の館内はいいにおいで満ちていた。

「お昼だね!」と、母はいそいそと部屋から出て来た。いま、どこにも行くところがない母にとって唯一の楽しみなのだ。

 昨年、帯状疱疹になって認知機能がグッと落ちたときは、食事時間になっても部屋から出て来ず、ヘルパーさんたちの手を煩わせたが、いまではすっかり復活。お腹の時計といいにおいに誘われて、自らうきうきと食堂に出向く。

 その日の献立はオムライスだった。私の知る限り、母が好んでオムライスを選ぶことはないはずだが、いまや食堂で3食作ってもらう立場であり、文句は言えないのだ。

 しかし、私も空腹だったせいか、ケチャップの甘い香りと美しく整った黄色いオムライスに、つい顔がほころんだ。

「へぇ~きれいなオムライスだね」
「気が利いてるでしょ」

 久しぶりに聞く、母の口癖のひとつ。私が子供の頃に描いたヘタな絵も、手料理でも贈り物でも、相手が精魂込めたものには必ずこう言う。母の最高のほめ言葉だ。

「ここの食事は本当においしいの。近所の料理上手の奥様が作ってくれているのよ」

 おそらく、食堂の厨房では工場から送られてきた料理を温めて盛り付けるだけ。

 それでもパート職員さんが温かい汁ものを母のためによそって、「はい召し上がれ」と渡してくれるのがうれしいのだろう。“料理上手な奥様”の妄想は、そっと大事にしておいてあげたい。

関連キーワード

関連記事

トピックス

違法薬物を所持したとして不動産投資会社「レーサム」の創業者で元会長の田中剛容疑者と職業不詳・奥本美穂容疑者(32)が逮捕された(左・Instagramより)
《レーサム創業者が“薬物付け性パーティー”で逮捕》沈黙を破った奥本美穂容疑者が〈今世終了港区BBA〉〈留置所最高〉自虐ネタでインフルエンサー化
NEWSポストセブン
ソロとして音楽活動5周年を迎える香取慎吾
《ソロで音楽活動5周年》香取慎吾が語った「5人とは違って…」「もっとできるはずなのに」ソロで経験した“挫折” ライブツアーでは「パーフェクトビジネスアイドル」としてファンを沸かせる
NEWSポストセブン
13年ぶりの写真集『ふたたび』(双葉社)を5月30日に発売
小向美奈子 Xで「今年結婚します!」投稿の真意を本人に聞いた 今でも「年に1~2回くらいは求婚される」と語る彼女は“ダーリン”との未来予想図をどう描くのか
NEWSポストセブン
《女子バレー解説席に“ロンドン五輪メダル組”の台頭》日の丸を背負った元エース・大林素子に押し寄せる世代交代の波、6年前から「二拠点生活」の現在
《女子バレー解説席に“ロンドン五輪メダル組”の台頭》日の丸を背負った元エース・大林素子に押し寄せる世代交代の波、6年前から「二拠点生活」の現在
NEWSポストセブン
6月3日に亡くなった長嶋茂雄さんとの写真を公開した大谷翔平(公式インスタグラムより)
《さようなら長嶋茂雄さん》大谷翔平から石原裕次郎まで、誰からも愛された“ミスター”の人生をスターたちとの交流で振り返る 
女性セブン
沖縄を訪問される天皇皇后両陛下と長女・愛子さま(2025年6月4日、撮影/田中麻以)
《愛子さま 初めての沖縄ご訪問》ブルーのセットアップで母娘の“おそろい”コーデ再び! 雅子さまはくすみカラーで落ち着いた着こなしに
NEWSポストセブン
人気インフルエンサーがレイプドラッグの被害者に(Instagramより)
《海外の人気インフルエンサーが被害を告発》ワインに“デートレイプドラッグ”が混入…「何度も嘔吐し、意識を失った」「SIMカードが抜き取られていた」【オーストリア】
NEWSポストセブン
大谷翔平(時事通信)と妊娠中の真美子さん(大谷のInstagramより)
《大谷翔平が帰宅直後にSNS投稿》真美子さんが「ゆったりニットの部屋着」に込めた“こだわり”と、義母のサポートを受ける“三世代子育て”の居心地
NEWSポストセブン
『激レアさんを連れてきた。』に出演するオードリー・若林正恭と弘中綾香アナウンサー
「絶対にネタ切れしない」「地上波に流せない人もいる」『激レアさんを連れてきた。』演出・舟橋政宏が明かす「番組を面白くする“唯一の心構え”」【連載・てれびのスキマ「テレビの冒険者たち」】
NEWSポストセブン
「ミスタープロ野球」として広く国民に親しまれた長嶋茂雄さん(時事通信フォト)
《“ミスター”長嶋茂雄さん逝去》次女・三奈が小走りで…看病で見せていた“父娘の絆”「楽しそうにしている父を見るのが私はすごくうれしくて」
NEWSポストセブン
現場には規制線がはられ、物々しい雰囲気だった
《中野区・刃物切りつけ》「ウワーーーーー!!」「殺される、許して!」“ヒゲ面の上裸男”が女性に馬乗りで……近隣住民が目撃した“恐怖の一幕”
NEWSポストセブン
シンガポールの元人気俳優が性被害を与えたとして逮捕された(Instagram/画像はイメージです)
避妊具拒否、ビール持参で、体調不良の15歳少女を襲った…シンガポール元トップ俳優(35)に実刑判決、母親は「初めての相手は、本当に彼女を愛してくれる人であるべきだった」
NEWSポストセブン