【著者に訊け】伊藤元輝氏/『性転師 「性転換ビジネス」に従事する日本人たち』/柏書房 1600円+税
かつては性転換手術とも呼ばれた〈性別適合手術〉に関し、海外の病院や旅行会社と連携し、渡航から帰国までを手伝うアテンド業者に『性転師』と名付けたこと。そしてこの怪しげな造語を、「お、いいですね。詐欺師みたいで」と言って表題に使わせてくれた業界第一人者・坂田洋介氏と出会えたことは、著者・伊藤元輝氏や私たち読者にとってもまさに幸運だった。
共同通信社神戸支局での取材時、著者はスキンヘッドに口髭のいかにも〈商売人〉ふうなアクアビューティ社代表の坂田氏と出会い、タイを拠点に性別適合手術の斡旋を手がける彼の仕事に興味を持ったという。
しかしそれはあくまでも〈面白い、ネタになる〉という興味であり、非当事者として〈キワモノ〉的に関心を寄せただけかもしれないと、伊藤氏の筆は正直だ。その率直さが取材対象や読者からの信頼を育み、私たちは当事者の切実さと、それを間近に知る業者側の葛藤、そして業者の存在をどこか訝しむばかりだった世間や自分との温度差に、改めてハッとするのである。
「新聞記事用の取材では性同一性障害で手術をした当事者に焦点を絞り、坂田さんには手術の前後に密着させてくれる方を紹介してもらっていました。今回書籍化するにあたり、ようやく業界の方に力点を置けました。
やはり新聞で扱うには、性転師はまだニッチでいかにも怪しい仕事ですよね。ただその怪しさが、僕自身も取材すればするほど晴れる感じがあった。この感覚は、取材経緯をそのまま順を追って書いてこそ、伝わるんじゃないかと思ったのです。本書をイロモノ本として手に取る人も多いと思う。それが読むうちに共感に変わるなど、変化を追体験できる本になっていれば嬉しいです」