職人気質の気難しい店主が、長年勤めた従業員に「ゆくゆくはお前に店を譲る」──ドラマなら涙モノのシーンだが、実際にそのような場面が訪れた場合、従業員と遺族との間には複雑な問題が持ち上がる。果たしてどちらの権利が有効か? 弁護士の竹下正己氏が回答する。
【相談】
3年前、中華料理店で働くことになり、昨年には店主から「この店を譲る」との一文をいただきました。その店主が他界、私は受け継ぐ覚悟でしたが、長男が店の土地を売ると言い出し、書面を見せても、自分の権利が優先されると譲りません。この場合、法的に長男の主張が尊重されてしまうのでしょうか。
【回答】
この「店を譲る」の意味が問題です。店は建物の意味もありますが、建物所有権だけを譲るという趣旨でないことは明白です。しかし、譲るのが店の土地建物の所有権を含めた飲食店の事業全体か、それとも中華料理店の経営だけか、その点が曖昧で、よくわかりません。
無償で「譲る」のは贈与契約ですから、当事者間の意思の合致が必要ですが、文書で確定できない場合、あなたと店主の間の話し合い、店や敷地の価値、あなたの貢献度や店主自身の経営継続の意欲なども検討しなくてはなりません。
店の土地建物が高額の場合、3年間働いた人に、その所有権まで譲るのは異例だと思います。また、什器備品を含む中華料理店の事業だけの贈与の場合、店の利用の条件について、どんな協議があったのかも問題です。