新型コロナウイルスの感染予防のための一斉休校が明けて、学校に日常が取り戻されつつある。しかし、一方で子供の学びを取り巻く問題点が次々と浮上している。元文科官僚の前川喜平さん(65才)と、“校則のない学校”として知られる世田谷区立桜丘中学の前校長・西郷孝彦さん(66才)さんが、それぞれの視点から、“学習権”を巡る大問題を詳らかにする。(後編)
◆“ゆとり教育”世代の学習到達度が非常に高い
前川:残念ながら日本の教育は、右派の政治家によって、ゆとりから詰め込み型教育へ先祖返りしてしまいましたが、私はゆとり教育に賛成です。
──ゆとり教育を撤回したはずなのに、OECDが発表した2018年の79か国・地域の学習到達度調査(PISA)では、日本は読解力を2015年の8位から15位に順位を下げてしまい、話題になりましたよね。
前川:このPISAは、義務教育修了時点(15才)の学力を調査するもので、読解力のほか、数学的リテラシー、科学的リテラシーの3つを、2000年から3年ごとに調査をしています。日本は2012年の調査で、OECD加盟国34か国の中で見ると、読解力も科学的リテラシーも1位、数学的リテラシーは2位という素晴らしい結果でした。授業時数と指導内容が少なかった、いわゆる「ゆとり教育」は2002年から2011年ですが、このゆとり教育時代を過ごしてきた子供たちが15才時点で行った2012年の調査が、実は非常に順位が高かったというわけです。
ゆとり教育の根幹は、詰め込む代わりに、“自分で考える時間を増やそう”というもので、いまの学習指導要領にある「主体的・対話的で深い学び」に通ずるものがあります。
西郷:桜丘中学校の独自調査でも、自分の考えを表明できる生徒の学力は、一様に高くなっていますよ。
◆道徳の教科書が本当に正しいかを生徒に問う
前川:いま日本は、悲しいことに全体主義、ファシズムの傾向が強まっています。それに抵抗するには、ますます「自分で考える力」が必要になってきます。
例えば信号。私は文科省からの出向でユネスコ代表部の書記官としてパリに3年駐在していました。フランス人は赤信号でも、車が来ていないことを確認したら渡ります。青になるまで待つことはありません。自分で考えているわけです。