荒れるレースを好機と捉えるか敬遠するか。競馬ファンも二分されるところだが、予想の観点からすれば面白さしかないはずである。競馬ライターの東田和美氏が七夕賞(GIII)を分析した。
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平成以降1番人気がわずか4勝。5番人気以下が15勝もしており、馬連が3桁(100円台)だったのは、わずかに1回。過去10年だけでも馬連万馬券は4回、3連単の百万馬券が2回出ている福島の名物重賞、一筋縄ではいかない。
もちろん、この時期古馬一線級の出走はない。ここでの勝利が初の重賞勝ちだったという馬が16頭だが、ツインターボなど3頭はこのレースの前に福島の重賞を勝っている。
今年の出走馬も11頭が福島コースを走ったことがあり、8頭が勝利をあげている。1戦1勝馬2頭を含めて「5頭が連対率10割」と伝えているメディアもあった。ヴァンケドミンゴなどは、関西馬でありながら全4勝すべてが福島でのものだ。
しかしこのレース、言われているほど“福島巧者”の天下とも思えない。福島競馬場で行なわれた過去20回で見ても、福島に勝ち鞍がある馬の勝利は6回。2007年のサンバレンティンが前年の福島記念を含む2勝をあげていたが、あとは1勝しているだけだ。
勝ち馬を眺めてみると、むしろ7頭に小倉競馬場での勝ち鞍があることに気づく。なかでも2005年に小倉三冠(小倉大賞典、北九州記念、小倉記念)などを勝ったメイショウカイドウは【8 1 2 3】という驚異的な小倉実績を引っ提げて2006年7月の福島に初見参、59キロを背負いながら前走でGⅡ金鯱賞を勝った1番人気のコンゴウリキシオーなどを退けている。その他2010年のドモナラズは小倉で2勝、2014年のメイショウナルトも小倉記念など3勝。2016年のアルバートドックも小倉大賞典の覇者だ。
福島も小倉もメイン開催は猛暑の時季。小回りでほぼ平坦、直線が1mしか違わないこともあって、適性馬が同じというイメージが関係者にはある。そういえば競馬場の規模や空気感もなんとなく似ている気がしないだろうか。
しかし美浦の所属馬にとって小倉競馬場はあまりに遠い。冬の開催では芝のレースを求めて遠征・滞在することもあるが、夏場の長距離輸送はリスクが高すぎる。東西格差の最大原因ともいわれている所以だ。
一方、栗東サイドにしてみれば、東京や中山より距離的には長くなるが、交通量が比較的少ない北陸道から磐越道というルート使うため、輸送が大変という意識はあまりない。
事実、七夕賞はここ10年だけでも関西馬が7勝しているが、小倉記念はずっと関東馬の勝利がない。2006年から1200mになった北九州記念はスプリンターズSの前哨戦という意味合いも出てきたため2016年に関東馬が勝っているが、それ以外は出走馬もほとんどいない。
ヒンドゥタイムズは今回がオープン入り初戦。これまで2000mばかり9走して5着以下がなく、新馬勝ち直後の2戦目にはGⅢ京成杯に挑んで2着とクビ差3着。昨夏の小倉2勝クラスでは1番人気に推されながら2着だったが、勝ち馬とは同タイムで、小回りを苦にした印象はなかった。今回が初めての福島。東京や中山で連を外していることから、陣営では輸送を課題にあげているが、むしろこのキャリアにもかかわらず、どこへ行っても崩れないと評価すべきではないか。