どんなことにも始まりがあれば終わりがあるように、どんなブームにも終わりが来る。透明容器の液体のなかに黒い小さな粒がコロコロと浮かぶ様子がインスタ映えすると爆発的ブームになったタピオカドリンクは、5坪に満たない狭小な場所でも開業できると店舗が大増殖した。しかし今や、タピオカドリンクにかつての勢いはない。代わって人気急上昇中なのが、ビタミンカラーがキレイで美容にもよいと大注目のレモネードだ。ライターの森鷹久氏が、タピオカブームに振り回され、レモネードでは同じ轍を踏まないと決意する人たちの事情についてレポートする。
* * *
「忘れもしません、4ヶ月前ですよ。店にやってきて、次は大丈夫ですってパンフレット見せびらかしてね。また騙されるもんかって空返事で追い返しましたけど、最近テレビ見ていて『あっ!』って」
東京都中野区の不動産店経営・冨田祐一さん(仮名・50代)が呆れたような乾いた笑い声をあげる。コンサルタントを名乗る男・Xを、自らが所有する都内の狭小店舗の内見に案内したのは昨年の春頃だった。
「タピオカ屋をやると言ってね、当時流行っていたでしょ? Xがコンサルしてる飲食系の社長が、うちの物件でタピオカ屋をやるんだって。4坪でも、とにかく安けりゃいいというから、全然借り手のつかない物件を格安で貸したんだ。家賃は10万円だったのを8万円に下げて、補償金もかなり下げた。2年は借りたいって言ってくれたからね。信用したんだよね……」(冨田さん)
当時は、テレビや雑誌で「タピオカ」がブームと連日取り上げられ、原宿や渋谷を歩けばタピオカ屋を起点にいくつもの行列、多くの若者が透明容器に太いストローが刺さったタピオカドリンクを片手に闊歩していた。東京で言えば、新橋や大崎といったサラリーマン向けの街にまで、雨後の筍のごとくタピオカドリンク店が乱立した。
ブームのときに慌てて参入する人たちの中には、少なからず不誠実な商いをする人たちが加わるものだ。X氏もそういった人物の一人だったと、彼を知る飲食店経営者・西川卓さん(仮名・30代)がいう。
「Xはチームを組んで、原価のかからないタピオカドリンクで金儲けするって息巻いてたんです。他の店が高級な茶葉を利用したミルクティを売りにする中、Xは激安スーパーで買ってきたペットボトルミルクティを使って、一杯100円しないのを600円で売っていた」(西川さん)
大風呂敷を掲げて不真面目な商売をするのは、よくいるあまり賢くない「経営者」である。お客さんと向き合ってよりよいものを提供する努力よりも、自分が儲かって楽しい思いをすることしか想定していない。だがX氏らは、ビジネスが傾く場合もきちんと考えており、ある意味での「賢さ」もあった。