人影はなく、雑草が生い茂り、カラスが傍若無人に舞い飛ぶ……。松尾芭蕉が詠んだ「夏草や 兵どもが 夢の跡」の句を彷彿させる荒景だが、これらはまだ戦いも始まっていない東京オリンピック・パラリンピック競技会場の“今”である。大会開催の1年延期で一時中止となった競技会場の建設工事はいつ再開するのか。
「開催年1年前の7月23日に全競技の会場と日程が決定するので、工事や整備の再開の時期も徐々に固まっていく。現在関係各所が大詰めの検討と調整をしています」(大会組織委員会)
ただ、延期に伴い発生する数千億円ともいわれる追加費用を国際オリンピック委員会(IOC)、組織委員会、東京都などでどう分担するのかも明らかにされておらず、懸念材料は山積している。大会の簡素化が謳われているが、観客席縮小の方向性、計画変更による再工事費用や新型コロナ対策費用も不明のままだ。工事の機材が放置されている会場近くを歩くと、1年後に本当に開催できるのかという疑問すら頭をよぎる。
巨額の費用を投じた競技会場や施設などが使われないまま、負のレガシー(遺産)とならないことを祈るばかりだ。
◆海の森水上競技場(江東区)
カヌー(スプリント)、ボート会場として東京・臨海部に整備されたが、チケットブースと思しき施設は生い茂った雑草に埋もれるように佇んでいる。
◆青海アーバンスポーツパーク(江東区)
初めて五輪競技に採用されたスポーツクライミングと3人制バスケットボールの会場では、劣化防止のためクライミングの壁が取り外され、仮設スタンドの足場も解体された。
◆選手村(中央区)
選手村一帯の道路は封鎖され、人影もなくゴーストタウンのよう。東京五輪後に改修し分譲されるマンションの入居は2023年の予定だったが、1年程度の延期の見込みで契約者との間で混乱も。