誰もが夢見るものの、なかなか現実にならない夢の馬券生活。調教助手を主人公にした作品もある気鋭の作家、「JRA重賞年鑑」にも毎年執筆する須藤靖貴氏が、競馬新聞用語とも言うべき短い常套句の数々についてお届けする。
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競馬に大切なのはセンスである。目黒考二さんのエッセイを読み返せば、その部分に自分で線を引いているではないか。当時からセンスがなかった! 馬を見る。メンバーの関係性を考える。レース展開を読む。馬券をどう買うか。すべてがセンスなのだった。
それは金曜日の午後3時ごろから始まる。いそいそとコンビニへ。どの新聞に手を伸ばすかもセンスだ。当日のパドックや返し馬を凝視できにくい昨今、新聞の情報こそが重みを増している。
成績や調教時計といったファクトは同じなのに、各紙の論調は微妙に違う。で、この機に比較してみた。いつも買う競馬紙ともう1紙。それから翌朝にスポーツ紙3紙。読むだけでも一苦労だけど、これが無類に面白い。
新聞用語とも言うべき短い常套句。積年練られているだけにセンスに溢れている。どちらかというと厳しい評価のほうに妙味がある。「詰め甘い」「目立たず」「様子見か」「まだ無理」などなど。「成績不振」「近走不満」なんて、馬柱を見れば分かるよ。要するに「馬券に絡みそうにない」との意を多彩に表現している。
同じ馬についても見解は異なる。A紙は「少々見劣り」、B紙は「不気味だ」。不気味というのは誉め言葉で、印組を脅かしそうな点で存在感がある。別の馬では「どこまで」と「善戦止まり」。疑問に答えている(笑)。正反対の例では「ここでは」と「軽視禁物」。人気薄の逃げ馬には「逃げても」と「流れ一つ」。なんか可笑しい。