汚染物質が残留している可能性がある輸入食品ではなく、多少値が張ったとしても、国産を選べばいいと思う人も多いはず。しかし、新型コロナウイルスの感染が拡大している現在においてにおいて、話はそう簡単ではないという。
さかのぼること3か月前、消費者庁はひっそりと『新型コロナウイルス感染症の拡大を受けた食品表示法に基づく食品表示基準の弾力的運用について』という通知を出している。これは、コロナの影響で原材料が不足して、別の産地のものを使わざるを得なくなっても、私たちが買い物をするときに参考にしている包装容器の食品表示は変更しなくてもよい、というものだ。極端な話、国内での生産が不足していることを理由に原材料を輸入食材に切り替えても、「国産」表示のままでいい。そんなルールになっているのだ。
消費者庁表示対策課の担当者は「原産地を変更し、それを受けてパッケージの印字を変更すると、約3か月の間、商品の流通がストップするという試算があります。流通が止まることによる不利益と、原産地表示に矛盾が生じてしまう不利益とを天秤にかけ、今回の通達を出しました」と説明する。
表示を切り替えなくてもよいとされるのは、原則として【食品原材料】と【添加物】。しかし、やむを得ない場合には【原料原産地】【製造所の所在地】【加工所の所在地】【栄養成分の量】が変更されても、そのままの表示でも咎められることはない。消費者への告知義務はあるものの、「店舗内の告知、社告、ウェブサイトの掲示等、どれか1つでも行っていれば問題ありません」(農林水産省消費・安全局の担当者)とのことだ。
いったい誰が、スーパーで食品を買う前にメーカーのホームページを確認するだろうか。これでは、天秤にかけられているのは私たちの健康ではないのか。識者もこの“弾力的運用”の問題点を指摘する。
「原料原産地、原産国は食の安全に欠かせない大事な情報です。それを変更しても表示はそのままでよいとなれば、消費者の選択する権利が脅かされていることになります。これは大きな問題です」
と、食品表示一元化検討会委員を務めたことのある薬学博士の中村幹雄さんが断罪する。もっとも、メーカー側が原料原産地などを変更する必要がなければ表示と実態が異なることはないが、日本が食の輸入先として頼ってきた中国でも、混乱は続いている。