「ウイルスの実態から乖離した対策が多すぎる」──そう話すのは国立病院機構仙台医療センターウイルスセンター長の西村秀一医師。国立感染症研究所や米疾病対策センターといった最前線の施設で研鑽を重ねたウイルス研究者の目には、現在のコロナ対策が「おかしなことだらけ」に見えるという。
「ウイルスは細菌のように自立して増えることができず、感染者の体外に排出されて寄生する細胞がなくなると時間とともに活性を失います。感染者の咳でウイルスが1万個飛んだと仮定しても、ほとんどは空気の流れに乗って散らばり、机などに落下するのは1センチ四方あたりわずか数個。
物にウイルスが付着することも極めて希です。感染者が自分の手に唾液をつけて、商品などにこすりつければリスクは増えますが、それはもはや“バイオテロ”であって通常の感染対策で考えることではない。しかし、いまは宝くじの高額当せんのような極めて低いリスクに全力で対応しようとしている」
西村氏がそう言うように、市中では飲食店の店員がフェイスシールドを着用し、家では日用品の消毒に躍起になり、一部の学校では机やボールを毎日消毒している。
「はっきり言いますが、感染者の出ていない学校で毎日机を消毒する意味はありません。そこから感染する『確率』がほぼ0だからです。同じことは葬儀でも言えます。呼吸しない遺体がウイルスを排出するはずがなく、葬儀屋まで防護服を着ている光景は滑稽と言うほかない。ご遺体のお顔をアルコールで清拭さえすれば、親族が葬儀に立ち会うことは問題なくできる」(西村氏)