想定していないトラブルが起きたとき、ひとつの物事や人物に原因を求められがちだ。だが、実際に起きている出来事は、もっと複雑なものであり、何かひとつに原因を求めるのは気休めにしかならない。ライターの森鷹久氏が、一見するだけでは不可解な事件が起きると「ダークウェブ」に端緒を見出したがる傾向についてレポートする。
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今年6月、東京・八王子で男子高校生が自殺した事件。発生直後、事件記者たちに衝撃が走ったのは、男子高校生が拳銃を使って自殺した、という情報が駆け巡ったからであった。全国紙警視庁担当記者が当時のことを振り返る。
「高校生が一般的な銃を持っているとは考えられず、最初は『3Dプリンター』を用いたり、水道管を使った手作り銃ではないか、との憶測も広がりました。その後、どうやら銃が本物らしい、ということになり、そうなればネットを使って高校生が購入したのではないかと、警察は実際に高校生の携帯電話などの解析を行いました」(全国紙警視庁担当記者)
間も無く、銃がアメリカ製の本物で、実弾50発も見つかったことで空気は一変。彼が高校を休みがちだったことから、銃がいわゆる「ダークウェブ」など、パソコンやインターネットに詳しい人間しか知らない世界で秘密裏に購入されたものではないか? との憶測が、当局や記者の間に急速に拡がったのである。
先に言っておくと、銃は元外務省のノンキャリア職員で、海外駐在歴もあった高校生の父親(故人)が日本国内に持ち込んだもの、という見方が今では強い。当局の捜査でも、高校生がダークウェブなどにアクセスした形跡は確認されていないという。それにしても、銃器犯罪について豊富なデータベースを持つ警察担当記者たちが、一時的とはいえ「ダークウェブ」由来の銃だという説にいっせいに傾いたのは、知識不足によるものではなかったか。
何かわからないことがあると、なんでも「ネットのせい」にするマスコミや世論に違和感を抱いて、もう20年以上が経つ。ネットが普及していなかった当時と比較すると、その向きはいくらか薄まってはいるものの、今度は特殊なブラウザなどを用いてしか閲覧のできない「ダークウェブ」という存在にいっせいにすがっているように見える。考えられない事件や新しい形の問題が起きた時に、特定の存在に責任を押し付け、安易に端緒を見出そうとする姿勢は変わらないではないか。
ダークウェブ上では、基本的に匿名で活動する人間の方が圧倒的に多く、物品の売買を行う際にもビットコインなどの仮想通貨が使われるために、どこの誰が何を取り扱っているか、一見するとわからない。実際に、ダークウェブの掲示板を覗くと違法薬物の販売を仄めかしたり、児童ポルノ映像のやりとりをしないか、といった書き込みも目立つ。英文ではあるものの確かに「GUN(銃)」などと書かれた販売ページも確認できた。ではここでなんでも買えるのかというと、実はそうではないらしい。