記録的豪雨で“暴れ川”と化した河川の水が、濁流となって堤防を越えていく。地鳴りのような轟音とともに家々に押し寄せ、またたく間に浸水。1時間ほどで1階をのみ込み、勢いはおさまることなく2階に迫る。避難場所は、もう屋根の上しか残されていない。目の前は荒れ狂った“海”となり、孤立した。
濁流が押し寄せた繁華街では、逃げ惑う人でパニック状態になっている。水が地下街に一気に流れ込み、地上に上がりたくとも、水の勢いに負けて階段を上れない。その間にも、水かさはどんどん増していく――。
これはあくまでシミュレーションだが、こうした光景が現実となる可能性も充分に考えられるという。
7月3日から熊本県や岐阜県などに甚大な被害をもたらした、「令和2年7月豪雨」。熊本県だけでも72人の死者を出す大災害となっている(7月13日現在)。
熊本県の湯前町(ゆのまえまち)では4日、24時間降雨量が489.5mmを記録。昨年10月、台風19号で東京の多摩川などが氾濫した際の降雨量は、2日間で473mm。今回の豪雨が、台風19号をはるかに上回る規模だったことがわかる。
もし同規模の豪雨が東京を襲った場合、未曽有の事態を招く危険性があるという。元江戸川区土木部長で『水害列島』(文春新書)などの著書がある土屋信行さんが言う。
「被害は熊本の比ではありません。都市部を流れる河川が同時に氾濫した場合、死者数は8万人を超える可能性もあります」
球磨川(熊本県)では、川幅が狭くなっている場所で8mほど水位が上がり、川の水が堤防を越える『越流破堤』が発生した。これは東京の川でも起こりえることで、荒川には危険ポイントが存在する。
「荒川の大きな“弱点”といわれているのが、北区・赤羽の岩渕から、埼玉県川口市にかかる東北本線の鉄橋(荒川橋梁)付近です。ここは、地盤沈下により堤防が周囲よりも3m近く低くなっているんです。同様に、京成線の鉄橋が架かる京成関屋駅と堀切菖蒲園駅の周辺も、危険エリアです」(土屋さん)
荒川と隅田川を仕切る北区の岩淵水門から、江東区・江戸川区の区境にある中川の河口まで、全長約22kmの人工的に開削された「荒川放水路」。その東側エリアは、厳重な警戒が必要だ。