国内

“ちょっとやんちゃなモテ男”の大いなる勘違いハラスメント

やんちゃなモテ男はもはや過去の遺物?

やんちゃなモテ男はもはや過去の遺物?

 作家の甘糟りり子氏が、「ハラスメント社会」について考察するシリーズ。今回は、いまでも自責の念がこみ上げてくる自らのハラスメント体験を告白。

 * * *
 数年前の年の瀬、某男性誌から対談の申し込みがあった。

 対談の相手はその雑誌の編集長。あまり時間がないようで、近々編集部に来られないかという依頼だった。頼んできたのは昔一緒に仕事をしたこともある編集者A氏。私は、年末のあれこれや締め切りを調整して、指定された翌週のある日、ヘアメイク(正確にいえば、忙しいヘアメイクの方のアシスタント)の女性と一緒に向かった。タレントではないから、もちろんマネージャーなんかいない。新刊がらみだとたいてい担当の編集者が同席してくれるけれど、そういう内容でもない。

 その雑誌は女性にモテることをなによりの優先事項としていて、そのためにどの時計を身につけ、どの服を着て、どのレンストランに行き、どんなセリフで落とせばいいか、といったことが誌面を埋めている。応接室は雑誌の方向性を示すように、凝ったインテリアだった。一角には電子ピアノまである。ほどなくして編集長が入ってきて、一言二言言葉を交わすと、なぜか部屋を出て行った。私のヘアメイクはここに来る前に済ませてある。すぐに対談が始まると思っていたのだけれど、編集長は戻ってこない。雑誌にとっては年末進行という大変な時期だから、何かと忙しいのだろうと思い、A氏と雑談していた。ヘアメイクの女性は離れた席に座っていた。

 やがてA氏との雑談は対談のテーマに関するものになった。A氏は揚げ句にノートとペンを取り出し、念のため録音してもいいかといわれた。私は、ああ、やっと編集長が来て対談が始まるのだと思い、それを承諾した。しかし、それでも一向に戻る気配はない。私がA氏からインタビューを受ける形である。途中、聞いてみた。

「これ、インタビューなんですか? 今日は対談なんですよね?」

 A氏は視線を逸らしながらいった。

「ええ、まあ…。たいていこんな感じでやってるんですよ。編集長、いろいろとあるもんですから。僕がきちんとまとめますから。ご迷惑はかけません」

 それからも、私への「インタビュー」は続いた。あまりに驚いて、聞かれたことへの答えを探すにはそれなりの集中力を要した。どういうこと?という気持ちが渦巻いたのだ。

 約一時間で「インタビュー」が終わろうとすると、カメラマンが入ってきて手慣れた様子で撮影の準備を始めた。それが整った頃、編集長が入ってきて、私の隣に座った。対談風のカットを撮るためだ。彼はにこやかに私の方を向いたり、腕を組んで笑ったり、なかなかの演技であった。れっきとした「やらせ」である。まったく対談をしていないのだから、演出の範疇ではない。しかし、私にはそれを指摘する勇気がなかった。

 自分も笑顔で応じれば、このばかばかしいやらせに加担することだと思うと、つい表情も引きつってしまう。いつの間にか、カメラマンの横には何人もの男性編集部員が並んでいて、こちらを見ている。そんな中、カメラマンが信じられないことをいった。

「甘糟さん、もうやだぁ、ばかぁって感じで編集長の背中を軽く叩いてください」

 はっ? 私はたいした知り合いでもない男性の背中に触れなくてはならないわけ? なんのために? 対談が楽しげに盛り上がっている画を撮るためなのだ。もっといえば、「こなれた遊び人の編集長がちょっとやんちゃな(これ、この類いの男性が好きな超ダサいフレーズ)ことをいって、女に仕方ないわねえとたしなめられている」というエピソードをでっちあげたいのだ。

 カメラマンもA氏も、他の編集部員の男性もみな、なんの疑問も持たずに、その「たわいもない様子」を待ち構えていた。唯一の私側の人間であるヘアメイクの女性はずっと後ろの方にいて見えなかった。自虐的に年齢を理由にするのは反則だけれど、五十を過ぎてもまだそんな役割に押し込まれるのかと思うと情けなく、媚びているような様子を撮られることは胃が熱くなるほどくやしかった。

関連記事

トピックス

違法薬物を所持したとして不動産投資会社「レーサム」の創業者で元会長の田中剛容疑者と職業不詳・奥本美穂容疑者(32)が逮捕された(左・Instagramより)
【20歳の女子大生を15時間300万円で…】男1人に美女が複数…「レーサム」元会長の“薬漬けパーティ”の実態 ラグジュアリーホテルに呼び出され「裸になれ」 〈田中剛、奥本美穂両容疑者に続き3人目逮捕〉
NEWSポストセブン
国技館
「溜席の着物美人」が相撲ブームで変わりゆく観戦風景をどう見るか語った 「贔屓力士の応援ではなく、勝った力士への拍手を」「相撲観戦には着物姿が一番相応しい」
NEWSポストセブン
(左から)「ガクヅケ」木田さんと「きしたかの」の高野正成さん
《後輩が楽屋泥棒の反響》『水ダウ』“2024年ダマされ王”に輝いたお笑いコンビきしたかの・高野正成が初めて明かした「好感度爆上げドッキリで涙」の意外な真相と代償
NEWSポストセブン
前田亜季と2歳年上の姉・前田愛
《日曜劇場『キャスター』出演》不惑を迎える“元チャイドル”前田亜季が姉・前田愛と「会う度にケンカ」の不仲だった過去
NEWSポストセブン
フィリピン人女性監督が描いた「日本人の孤独死」、主演はリリー・フランキー(©︎「Diamonds in the Sand」Film Partners)
なぜ「孤独死」は日本で起こるのか? フィリピン人女性監督が問いかける日本人的な「仕事中心の価値観」
NEWSポストセブン
timelesz加入後、爆発的な人気を誇る寺西拓人
「ミュージカルの王子様なのです」timelesz・寺西拓人の魅力とこれまでの歩み 山田美保子さんが“追い続けた12年”を振り返る
女性セブン
不倫報道の渦中にいる永野芽郁
《私が撮られてしまい…》永野芽郁がドラマ『キャスター』打ち上げで“自虐スピーチ”、自ら会場を和ませる一幕も【田中圭との不倫報道】
NEWSポストセブン
(SNSより)
「誰かが私を殺そうとしているかも…」SNS配信中に女性インフルエンサー撃たれる、性別を理由に殺害する“フェミサイド事件”か【メキシコ・ライバー殺害事件】
NEWSポストセブン
電撃引退を発表した西内まりや(時事通信)
電撃引退の西内まりや、直前の「地上波復帰CMオファー」も断っていた…「身内のトラブル」で身を引いた「強烈な覚悟」
NEWSポストセブン
女性2人組によるYouTubeチャンネル「びっちちゃん。」
《2人組YouTuber「びっちちゃん。」インタビュー》経験人数800人超え&100人超えでも“病まない”ワケ「依存心がないのって、たぶん自分のことが好きだから」
NEWSポストセブン
入院された上皇さまの付き添いをする美智子さま(2024年3月、長野県軽井沢町。撮影/JMPA)
美智子さま、入院された上皇さまのために連日300分近い長時間の付き添い 並大抵ではない“支える”という一念、雅子さまへと受け継がれる“一途な愛”
女性セブン
交際が伝えられていた元乃木坂46・白石麻衣(32)とtimelesz・菊池風磨(30)
《“結婚は5年封印”受け入れる献身》白石麻衣、菊池風磨の自宅マンションに「黒ずくめ変装」の通い愛、「子供好き」な本人が胸に秘めた思い
NEWSポストセブン