今年8月24日に安倍晋三首相の「連続在任期間」は大叔父である佐藤栄作首相の記録(7年8か月)を抜き、歴代最長となる。
「歌手1年、総理2年の使い捨て。一内閣一仕事でいい」。そう語ったのは竹下登首相で、一つの内閣が達成できる仕事はせいぜい一つという意味だ。事実、第2次安倍内閣までの6代の総理(その1人は安倍首相)は在任ほぼ1年ごとに交代し、政権が不安定で「何も決められない政治」と言われた。
では、歴代最長の安倍政権はこの国と国民の将来に何を遺すことができるのだろうか。それを検証するために、歴代の長期政権が遺した足跡を同時代の証言で辿っていく。シリーズ第1回は「昭和の妖怪」と呼ばれた安倍首相の祖父・岸信介首相(在任1241日)である。(文中敬称略)
「社会主義にだって賛成する」
岸信介首相は、「日米安保条約を改定したタカ派の再軍備論者」というイメージで語られる。
戦前は東條内閣の商工大臣を務め、敗戦後、A級戦犯に指定、逮捕されながら不起訴となり、「自主憲法制定」を掲げて戦後政界に復帰すると、わずか4年で総理大臣にのぼりつめた。
首相に就任した岸は訪米してアイゼンハワー大統領と会談し、日米安保条約を改定する。この新安保条約が現在まで60年続く日米同盟の基礎となっているのは間違いない。だが、安保改定に反対するデモ隊が国会や首相官邸、岸の私邸にまで押しかける中、条約を国会で強行採決したことが強権的なイメージを後世に残した。