未曽有のコロナ禍はまだまだ収束しそうにない。ソーシャルディスタンスやフィジカルディスタンス(身体的距離)が当たり前の世の中になりそうだ。しかし、触れ合いを制限されたことで、その重要性にも気づかされた。不安を訴える声も聞こえてくるが、高齢者ならさらに深刻だろう。
皮膚への刺激は心にも大きく影響するという。不安も安心も文字通り“肌で感じる”のだ。人が触れるだけでなく、衣類など肌に着けるものの影響も大きいというから、なかなか会えない老親ケアのヒントにもなりそうだ。桜美林大学教授・山口創さんに聞いた。
触れることは究極のコミュニケーション
「人はイライラしたり不安なとき、ほおづえをついたり髪をいじったり、無意識に自分を触ります」と言う山口さん。
これは皮膚に刺激を与えることで、心を落ち着かせ安心を得ようとする表れ。特に顔は心地よさを感じる神経線維が体のほかの部位より多く、つい触るのだという。
「皮膚は体の中と外との境界です。外の刺激から体を守り、痛みや温度、外部環境などを感じ取って脳に情報を伝える大きな役割があり、人体最大の臓器ともいわれます。また、心や意識に与える影響も絶大。皮膚にどんな刺激を与えるかで、その人の心をコントロールするほどの力もある。精神分析学の創始者フロイトが『心は、主に皮膚感覚から生まれる』といった言葉も残しています」
たとえば老年性乾皮症によるかゆみは大きなストレスになり、イライラや精神的不安定につながるといわれる。あるいは、ゴワゴワした肌触りの悪い衣類を着用するとストレスホルモンが増えるという実験結果もある。
さらに興味深いのは、皮膚を温めると他者との心理的距離が近くなり、寛容になるということ。これはアメリカの行動経済学者の実験結果によるもので、皮膚と心が連動している検証の1つだという。
「不安なとき、誰かに背中をやさしくさすってもらうとフッと軽くなる。これは誰しも経験があるのではないでしょうか。お母さんが手を当てるだけで痛みが和らいだり、認知症の人の手を握るだけで落ち着いたりすることも。“触れる” ことは、癒しの力を持つ究極のコミュニケーションなのです」