本誌・女性セブン連載『トラとミケ』(ねこまき・作)の単行本第2巻が発売されるや1週間経たずして重版が決定。名古屋にあるどて屋『トラとミケ』を舞台に描かれるほっこりストーリーと美味しい料理の数々に、「第2巻も泣けた」「心癒された」「どて煮などはもちろん、名古屋名物の鬼まんじゅうまで載っていてうれしかった」など大きな反響を呼んでいる。手抜き料理研究家/料理ブロガーのはらぺこグリズリーさんがその魅力を語った。
* * *
『トラとミケ』は読んでいてほっこりする、人情味のある温かい気持ちになる話がいっぱい詰まっていました。美味しそうな料理もたくさん出てきますが、この漫画のすごいのは、一つ一つの食べ物に忘れ得ぬ思い出や人生のストーリーが結び付いていること。だから一層美味しく見えるんだと思うんです。
例えば金目鯛には、亡き母との思い出がありました。1964年、前の東京五輪の時、中学生のミケが聖火ランナーの随走者として大役を果たした後、その姿を見るため一時退院した母が「金メダルならぬ金目鯛っ」とご褒美に煮付けを作ってくれた。ちょうどそのことを回想していた姉のトラは、魚屋で金目鯛を見て即買い。
その晩、ミケとしみじみ、母の煮付けの味を思い出しながらあら煮を食べる――。こうやって思い出にごはんの味が一緒に残るのって、ぼくは料理の醍醐味だと思います。
この作品を読んでいるうちに、ぼくも味の記憶が蘇ってきました。トラやミケが常連さんたちと平成最後のお花見に行く際に、ルミちゃんがよだれを垂らしながら牛肉コロッケやみたらし団子を買いに走るシーン。あの姿なんて、ぼくの子供時代そのもの。
家族でピクニックに出かける時、いつも母の作るお弁当が一番の楽しみでした。とはいえ、すごく凝ったものというわけではなく、中味はタコウインナーやだし巻き卵、そしてツナやおかかなどの具材が入った三角おにぎり。でも、ぼくにとっては、ピクニックのアトラクションよりも、母が作ったおにぎりを頬張るのが何より至福の時だったんです。
そんな食いしん坊なぼくですから、「自分で作れたらいつでも美味しいものが食べられる」と思って、料理をするようになりました。といっても、一人暮らしの身ですから、普段作るのは、魚の塩焼き、肉じゃが、みそ汁など、すごく豪華な食事というわけではない。