森永氏の父は在宅介護中に結腸がんの手術を受け、その後は寝たきりとなったため介護施設に入所した。その頃には父自身が預金口座や株など資産の在処を忘れてしまっており、死後は手続きに追われたという。
「父は10以上の口座を持っていたので、遺産整理をするために私は実家に篭って銀行や証券会社、父の勤め先等からの郵便物を1通ずつ確認するなど本当に大変でした。相続税の納付は10か月後までにキャッシュで支払わなければいけない短期集中戦。もし口座がリスト化されていたら作業は半減できたはず。今はもう手遅れですが、その当時資産の在処を完璧に把握していたはずの父にVRで会えていたら……と思います」
2004年、6年に及ぶ闘病・介護生活の末に妻を乳がんで亡くしたジャーナリストの田原総一朗氏はこう言う。
「妻にはもちろん会いたい。私は妻の介護や看取りに悔いは一切ありません。だからこそVRでもし会えたら、言葉は何も交わさず、愛している者同士、裸と裸で抱き合って黙って時間の終わりを迎えたいです。それが夫婦の愛の確認だから」
現在、VR研究の世界では触覚をリアルに再現する人工皮膚の開発が進んでいる。田原氏の願いが叶う日は、遠くないかもしれない。
怒られるから会いたくない
一方、「会いたいと思わない」と話すのは宗教学者の島田裕巳氏だ。
島田氏は、現代の家族の介護心中や介護殺人が社会問題化するなか、そうした悲劇を避けるために「親捨て」の概念を提唱している。自分を犠牲にしてまで親を介護し看取ることは子の義務ではない、と主張するものだ。島田氏がそんな考えに至ったのは、実父の死が影響しているという。