妖怪の外見は「気持ち悪さを狙って作ったのではない」という点も重要でしょう。人の邪気を喰らう呪々ガエルの気持ち悪い外観=人間の欲望や煩悩の醜さ。つまり、特殊メイクやCGを通して、視聴者は自分たちの醜さに対面させられているのです。
そして3つ目の魅力は、歴史の深み。ドラマが終わると「荒俣宏の妖怪講座」という解説があり、妖怪たちがなぜ生まれたかを解説してくれる。ドラマの監修も荒俣氏が担当しているだけに、江戸の庶民の暮らしと妖怪との関わりが見えてきて興味深い。
未知のものは怖い。けれど、江戸の人々はただ怖いからといって排除するだけではなかった。ともに暮らす知恵もあった。自然災害や疫病、苦悩や欲望を反映していたりする妖怪と、どう向き合い、折り合いをつけ、いなしたりすかしたりながら共存していくのか。これもドラマの隠されたもう一つのテーマでしょう。
「先が見えない時代に、人々が抱く不安や恐れが投影されるのです」と妖怪研究の第一人者・小松和彦氏も言っています。日本では疫病を鬼で表現してきましたが、最近では妖怪“アマビエ”が有名になりました。人はよくわからない現象を恐れるだけではなくて、それを妖怪化することによって理解したりいなしたり共存したりしてきたのではないでしょうか。
『大江戸もののけ物語』の醍醐味とは、役者の新鮮さ、特殊メイクやCGを駆使したビジュアル的楽しみ、そして妖怪とともに生きてきた歴史の振り返りと奥深い。コロナという感染症に向き合っている今こそ、ドンピシャのドラマと言えるかもしれません。