世界でも有数の夜の盛り場である新宿区の歌舞伎町だが、飲食店はどこも満席で、入れる店を探すにも一苦労、行く当てのない人たちを待ち構えるキャッチセールスが路上に何人もいるという光景が見られなくなっている。ところが、今ではどの店も簡単に席を取れるし、休業なのか閉店なのか、シャッターが降りたままの店舗も少なくない。ライターの森鷹久氏が、営業不振だけならともかく、世間の敵のように扱われて心が折れたという飲食店主の告白をレポートする。
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「何が『夜の街』ですか。そんなもん、六本木も渋谷も池袋も、全部夜の街ですよ。新宿が感染の震源地だというメディアまである。そこまで忌み嫌われるのなら上等です、お望み通り辞めてやりますよ」
こう怒りを露わにするのは、東京新宿・歌舞伎町の飲食店オーナー・丸田総次さん(60代・仮名)だ。新型コロナウイルスの感染拡大を受け4月の初めから営業を自粛していたが、緊急事態宣言解除後には営業を再開。座席数を従来の3分の2に減らし、それぞれ飛沫感染防止用のクリアプレートを設置した。店の入り口には体温計と消毒剤の設置もした。営業再開までには、相当な手間暇をかけて投資したと訴える。
「それでもお客の戻りは以前の3割ほど。ちょうどその頃、歌舞伎町のホストでクラスターが発生したと話題になりました。ホストや一部のキャバクラ、ガールズバーが緊急事態宣言下でガンガン営業していたことは、わかっていました。もちろん、勝手なことしやがってとは思いました。ただ、連中だって生きるためにはやるしかない。とはいえ、そのせいで歌舞伎町、いや新宿から人が減っていくのなら許せないという気持ちでした」(丸田さん)
東京都をはじめとした大都市で、感染拡大当初は不十分だったPCR検査体制が充実し始めたいま、判明した新規感染者の濃厚接触者は、ほとんどがPCR検査を受けているとみられる。その影響もあるのだろう、7月になってから東京都では、緊急事態宣言を発するほど事態が逼迫していた4月を上回る新規感染者数を連日、記録している。これは「感染第二波」がすでに起こっているのではないか、とおおっぴらに議論されるほどだ。感染者数が増えても無症状や軽症者ばかりと言われていたが、重症患者数の割合もここにきて増加傾向にある。
「都も国もマスコミも、ホストを悪者にした後は『新宿が悪い』ですからね。じゃあ電車や職場はどうなんだと。新宿ばかりを悪者にして、渋谷や池袋では、夜の街に人が溢れてるんですよ。新宿ばかりを重点的にやるのではなく、他のエリアの検査を同じくらいやれば、かなり出てくるに違いないですよ」(丸田さん)