警察や軍関係、暴力団組織などの内部事情に詳しい人物、通称・ブラックテリア氏が、関係者の証言から得た驚くべき真実を明かすシリーズ。今回は、感染防止用のアクリルの仕切り板について暴力団幹部がホンネを吐露する。
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「アレはトラウマだよ。我慢できない」と、暴力団幹部は顔をくしゃくしゃにして大笑いした。
彼が“アレ”と言ったのは、今や飲食業などを営む店舗では必須アイテムとなった代物。堅気の一般人としては、それのどこがトラウマになるのかすぐにピンとはこなかった。だが同席していた若い衆は大きくうなずき、すかさず声を上げた。
「ですよね! わかりますよ。僕もアレを見た瞬間、同じことを思いましたもん」
「だろ~。アレだけはありえないよな。アレを目の前に食事しろって言われたら、ふざけるな!だよな」
「ほんと、アレの真ん中にポツポツと穴が開いてたら、まるでそっくりですよ。いっそポツポツと穴を開けましょうか」
若い衆が指先で穴を開ける真似をすると、幹部は「オイオイ、やめろ」と言いながらそれを手で払った。それからしばらく二人は、ああだこうだと言いながら腹を抱えて笑い転げていた。
“アレ”とは、人と人との間を仕切るアクリル板。彼らにとってアクリル板は、留置場や拘置所、刑務所にある面会室を想起させるらしい。透明の板で真ん中で仕切られたその部屋は刑事ドラマでよく見るセットとまったく同じで、顔の位置には話をするため、丸い枠の中にいくつもの穴が開けられている。
「入ったことのある人間なら、誰でもすぐに思い浮かべますよ」
拘留経験はケンカの時の1度のみという若い彼でさえ、瞬時にその時の記憶がよみがえったというぐらいだ。経験したことのない人間にはわからないが、拘留や服役を経験しているヤクザなら、再び目にしたくない代物がこのアクリル板なのだ。
「ラブホテルの受付やパチンコの両替所にもアクリル板はあるが、どちらも客とやり取りするため、下に小さな窓口が開けられているだろう? それにどっちも顔を見る必要はないから、暗くてもかまわない。相手と目を合わせることもないから、アクリル板を意識することはない」
だが面会所は顔を合わせることが目的のため照明は明るく、それが飲食店のアクリル板と重なるという。苦い記憶やマズイ飯が思い出され、アレを前にすると何を食べても美味くないらしい。