「切らない、痛くない、こんな治療法があるなんて信じられない気持ちでした。術後の生活は手術をした場合とは比べものになりません。陽子線治療が受けられて本当によかったと心から思います」
こう話すのは、4年前に乳がんと診断された長野県在住の原田真弓さん(仮名・60才・会社員)。2度目の乳がんだった。
「1度目は右胸。幸い早期発見で、部分切除手術と放射線治療でがんは消え、ようやく迎えた10年目の定期検診で、今度は左胸に見つかったんです」
今回もステージIで、命にかかわることはないと言われた。しかし、“また手術か…”と深いため息がもれた。右胸に残る大きな傷痕。1度目の治療がトラウマになっていた。
「術後に半年近くも続いた、あの痛みにまた耐えなきゃいけないのかと思うと…。腕を動かすだけで手術痕が引きつるように痛み、寝返りのたびに切除した胸の奥の痛みで目が覚める。切る治療の痛みやつらさを知っているからこそ、気持ちはどんどん塞いでいきました」(原田さん)
しかし、治療を先延ばしにはできない。手術に向けて粛々と準備を進めていた。そんなとき、ある新聞記事が原田さんの目に留まった。乳がんの陽子線治療の臨床試験が始まったという内容だった。すぐに連絡を取り、2016年春、鹿児島県指宿市にある『メディポリス国際陽子線治療センター』で陽子線治療を受けることとなった。
◆99才肺がんの患者も治療
がんの治療は、手術でがんを切除する「手術療法」、抗がん剤などの薬物でがん細胞を死滅させる「薬物療法」、放射線を照射し、がん細胞を死滅させる「放射線療法」が3大療法と呼ばれ、がんの部位やステージ、年齢によって治療法を選択する。
原田さんが受けた「陽子線治療」とは放射線治療の1つ。2012年に作詞家のなかにし礼(81才)が、この治療で食道がんを克服したことでも話題になった。先進医療としても注目され、治療を受けた患者から「夢の治療」と呼ばれることもある。