どんなものにも、病気にも名前がある。新型コロナウイルスの呼称に関して、一時期は「武漢ウイルス」という呼ばれ方もあったが、そこには反発も見られた。評論家の呉智英氏が、医学的な発明・発見に付けられた名称について考察する。
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コロナ第二波が来ているような気配である。対策は医学・疫学の専門家に任せるよりしかたがない。私にできることは、コロナ関連の社会現象を論じることだけだ。
この疫病、またその病原体を何と呼ぶか。学術的にはCOVID-19(Novel Coronavirus disease 2019、新型コロナウイルス病二〇一九年)だが、日常語としては分かりにくい。通常、新型コロナ、さらに略してコロナ、あるいは発生地にちなんで武漢ウイルスである。
このうち武漢ウイルスは不名誉な名称だとして支那政府は反撥している。しかし、四月三日付産経新聞は支那の環球時報でさえ武漢ウイルスと表記していたと指摘している。私は字数も少なくて便利なのでコロナとするが、発生地を明示する意味で武漢ウイルスも否定することはないと思う。
そもそも、病気など負の事例に地名を使うことは珍しいことではない。水俣病、四日市喘息など公害病には地名がつく例がある。ヒロシマ、ナガサキは、人類史的悲劇を世界中が記憶するため、被爆を象徴する言葉となっている。
とはいえ、無用の混乱を生じる名称もある。
現在コロナの治療法について模索が続けられている。その一つに、コロナに川崎病と類似の症状が見られるという報告がある(七月三日付朝日新聞)。ただし川崎病には伝染性はなく症状が類似するだけだが、治療法の併行開発も可能になるかもしれない。