校内でクラスターが発生し、独自大会の辞退が明らかになった日、県立岐阜商を指揮する鍛治舎巧に連絡を入れた。2017年夏の甲子園を最後に秀岳館(熊本)を離れ、翌年3月に母校である県岐商の監督に就任。入学から指導にあたった今年の3年生は、春の選抜、夏の選手権に続き、最後の岐阜大会まで奪われた。
新型コロナに翻弄された挙げ句、選抜出場校への救済措置として8月10日から開催される「甲子園高校野球交流試合」の出場さえ危うい──さぞ落胆しているだろうと思いきや、声色はいつものように甲高かった。
「交流試合は問題ないでしょう。高野連の規定では、独自大会も出場可能だったんですが、教育委員会と保健所が休校を決め、部活動も禁止となったことで、辞退せざるを得なかった。不可抗力ですから仕方ありません」
休校が続いていた4月、鍛治舎は部員の自宅などに足を運び、不足していたマスクや消毒液、うがい薬を配って回った。コロナ対策には細心の注意を払ってきた。
「秋以降も、学校内で感染者が出たら、また辞退しなければならないのか。このままでは、自分のせいで野球部に大会を辞退させてしまったと、感染した生徒が心の傷を一生背負うことになる。教育上、絶対に良くない。高野連は文科省やスポーツ庁と協議を重ね、感染者が出た場合のガイドラインを示してほしい。来年再び春夏の甲子園がなくなったら、高校野球は廃れてしまいますよ」
75人の部員と、鍛治舎を含む7人の指導者は学校でPCR検査を受け、陽性者は皆無だった。