64才から20年間、ほぼ毎晩通学した奈良市に住む西畑保さん(84才)は、「夜間中学は青春」と振り返る。
「青春は若い人だけのもんやない。休み時間に外国の人らとおしゃべりして、中国では帰省時にお土産を1人1個ずつ買わないかんことを学んだし、韓国のおばちゃんは息子の嫁の愚痴を散々言ってスッキリしていた。学校ではいろんな人に出会って新しいことを経験して、ワクワクします。
ぼくがいま、スマホを使えるようになったのも、10代の同級生が教えてくれたから。『アドレスってどうやって登録するの?』とか、いちから丁寧に教えてくれるんです。70才過ぎて『あの子が好きや』と恋愛する人もいましたよ(笑い)」(西畑さん)
学ぶだけでなく、「教える喜び」を得ることもできる。
「70代の日本人男性でスペイン語を習いたいという生徒がいました。たまたまボランティアスタッフの中にスペイン語が話せる同年代の男性がいたので、マンツーマンでスペイン語講座をやっていた。そこへコロンビア人でスペイン語しか話せない10代の姉妹が入ってきたんです。スペイン語を教えていた人だけでなく習っていた人も覚えたてのスペイン語で姉妹に日本語を教えるようになりました。
70代の日本人男性が2人と、10代のコロンビア人女性が2人。国籍も年齢も性別も違う人が集い、お互いの知っていることを教え合い、学び合う。学びの理想の姿がここにあるのかもしれません」(前川さん)
42年間にわたって夜間中学で教鞭をとった見城慶和さん(82才)も「夜間の授業は、学ぶことそれ自体に喜びを見出せる」と声を揃える。
「昼間の学校では100点を取らせることが目標になりがちですが、夜間は教えることも、学ぶことも喜びになる。子供は昼の学校には行けば行くほど、人と自分を比べて自信がなくなる。だけど夜は、もともとみんな違うから、逆にそれでいい、それが当たり前だと、どんどん自信がつくんです」(見城さん)