“クラスター”という言葉が浸透して久しい。新型コロナウイルスの感染者数が、激増するいま、夜の街から教室内までありとあらゆる場所で集団感染が起きている。
特に恐ろしいのは、病気を治療するための病院に行って感染してしまう例だ。都内でクリニックを営む男性医師がため息をつく。
「完全予約制に切り替え、整形外科や胃腸内科など各科1時間に1人しか患者さんを入れないようにしています。さらに、患者さんが帰るごとに換気し、スタッフは白衣だけだが着替えることにしました。患者さんが減っているのにコストは上がり、正直なところ、金銭面ではかなりきつい。とはいえクラスターを発生させてしまえば、クリニックの信頼は失墜してしまう。ウチは徹底している方だと思いますが、他院がここまでやっているかどうか…」
従来から、インフルエンザや風邪の流行期などには「病院で病原菌をもらってきてしまったのでは」といった話はよく耳にしていたが、もらってくるのが新型コロナウイルスでは事態の重さが違う。いま、病院との距離を問い直す時期に来ているのかもしれない──。
気をつけるべきはスリッパとカーテン
どこの病院も、扉を開ければほのかに消毒薬のにおいを感じる。統一された基準ですみずみまで消毒が行われていると思うのが普通だろう。だが、北海道科学大学薬学部客員教授で感染症専門医の岸田直樹さんは「実は厳格なルールは存在しない」と明かす。
「どこまで清潔に管理するかは、各病院にゆだねられているのが実情です。大きな急性期病院であるほど徹底している傾向があるが、そうでないところもある。スタッフの数や病院の規模などにより、バラつきが生じている」
実際、関東近郊の大型病院に勤務しているスタッフの中からもこんな嘆きの声が上がっている。
「病院スタッフが霊安室から病棟まで同じ内履きで移動するところも少なくない。病院の床はあらゆる菌がはびこり、もちろん掃除はしますが、消毒しても意味がないほどだというのが共通認識です」(ある病院関係者)
聞くだけでぞっとする話だが、岸田さんも履き物のリスクを指摘する。
「手すりやドアノブなど、病院の中のものはなるべく触らないようにしてほしい。盲点はスリッパがある医療機関です。毎日消毒しているとは思いますが、患者さん1人ごとにきちんと消毒できているかというと、そう言いきれないところが多いのではないか」
スリッパのリスクは、コロナをはじめとしたウイルス感染症だけにとどまらない。新潟大学名誉教授で医師の岡田正彦さんも声をそろえる。
「スリッパ経由で病気がうつる可能性は否定できず、私自身は、履き替えなければならない病院には行きたくない。日本人は水虫に悩む人がものすごく多いですが、実は欧米にはほとんどない病気。理由として銭湯や温泉での感染が挙げられますが、スリッパが原因だろうと私は考えています。たとえ『殺菌・滅菌済み』と書いてあっても、本当のところはわかりません」