2020年は新型コロナによって、高校球界にとっても異例の対応が続く年となった。春の選抜、夏の甲子園は相次いで中止が決まり、8月10日からの「甲子園高校野球交流試合」は、春の選抜の出場校が各1試合ずつを戦うだけだ。東北勢として初となる甲子園制覇を目指していた仙台育英(宮城)も、その夢を思わぬかたちで絶たれた。それでも、若き指揮官は前を向こうとしていた。ノンフィクションライター・柳川悠二氏がレポートする。
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コロナ禍で春夏の甲子園が中止となり、沈滞する空気が漂う高校野球界にあって、実直な発言や、斬新なアイデアが注目を集める若手指揮官といえば、宮城・仙台育英の須江航監督(37)だ。
ドラフト候補の4番・入江大樹や東北を代表する左腕・向坂優太郎ら3年生だけで臨んだ宮城・独自大会は、危なげなく制した。8月15日には倉敷商(岡山)との「甲子園交流試合」が待つが、その前に、9日から3日間にわたって開催されるこの夏限定の東北大会に参加する。
2018年1月の就任以来、夏も秋も春も県大会無敗の監督に、東北大会でも同じように3年生を総動員して戦うのか、と訊ねた。
「いえ、ベンチ入りメンバーは大きく代わりますね。独自大会は甲子園という夢の舞台がなくなった3年生に対する救済の目的があった。東北大会はチャンピオンシップで、東北6 県を勝ち上がった学校と対戦する。本来の夏のような大会にして、選手には多くのことを学んでもらいたい」
全都道府県で開催された独自大会は、仙台育英のように3年生だけで臨む学校も多かった。さらに、例年ならば登録メンバーの変更は禁止だが、この夏に限ってはそれも可能なため、1試合だけでも出場させてあげたいというような情を優先した選手起用も見受けられた。トーナメントの途中で打ち切りとなる都道府県もあり、真剣勝負の場ではあるものの、やはりグラウンドに立ちこめる緊張感はいつもの夏とは異質で、親善試合のようなムードも漂っていた。