ドラマがヒットする際にはキャスティングや原作の人気などの他にも“要因”があるものだ。ドラマウォッチを続ける作家で五感生活研究所代表の山下柚実氏が指摘した。
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『私の家政夫ナギサさん』(TBS系火曜午後10時)が絶好調です。視聴率は二桁が続き、しかも第5話14.4%と右肩上がり。ここまで人気が出るとは、制作サイドでさえ想定外だったのでは。
物語の主人公は製薬会社で働く独身キャリアの相原メイ。多部未華子さんの安定した演技が全体をひっぱっているのですが、もう一つ強力な駆動源があります。それがスーパー家政夫・鴨野ナギサを演じる大森南朋さん。「おじさんにキュンとくる」「あのエプロンおじさんに家事を頼みたい」と大評判をとっています。
大森さんといえば……二枚目テイストとはちょいと違う個性的な風貌。揃えた前髪にタレ目、丸鼻、笑いじわ。齢は50に手が届きそうな、まさしくオジサン。そんな家政夫・ナギサを演じる大森さんが、今や女性視聴者を中心に好感度バツグンです。
エプロン姿がよく似合い、常にニコニコして柔らかな雰囲気がウケている大森さんですが、しかし当初はコワモテのイメージでした。父はアングラの巨星で暗黒舞踏の第一人者・麿赤兒、クセのある遺伝子を持つ。そもそも最初に大森さんがテレビでブレイクしたきっかけは2007年放送の経済ドラマ『ハゲタカ』(NHK)でした。あの時に演じた外資ファンド代表・鷲津は、冷徹で眼光鋭くまさしくハゲタカそのもので、女性たちがワイワイ言うようなキャラではありませんでした。
個人的な体験としては20年近く前、映画『殺し屋1』(2001年三池崇史監督)で、映画初主演の大森さんを見ました。仕事の関連でさほど予備知識もなく見に行ったのですが、R-18指定の内容は過激で残虐性が強くひたすら怖くて、不気味な世界におののいたことを憶えています。(ちなみに暴力描写によるR18指定はこの作品が日本初とか)。その時の大森さんの個性的な雰囲気は、記憶に刻まれました。
まさかあの大森さんが、今では「カワイイおじさん」としてキャスティングされ「おじキュン」の象徴的存在となっているなんて。世の中の変化は面白いもの。おそらく今回のキャスティングの兆しは、ヨーグルトR-1のCMあたりにあったのでしょう。
いや、もしかしたら大森さんだけではないのかもしれない。