災害や事件、事故などに遭ったとき、本当は深刻な状況なのに心が疲弊しないために物事を過小評価してしまう「正常性バイアス」を人間は発揮することがある。警報が出ているのに避難しない、危険なので近寄らないでと言われているのに見物や撮影に出かけてしまう人には、正常性バイアスが働いていると言われる。新型コロナウイルスについても、悪い意味でコロナがある生活に慣れ、無頓着になる人が続出している。ライターの森鷹久氏が「コロナ慣れ」してしまった人たちについてリポートする。
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「大手企業に勤める夫は、8月に入り再び在宅勤務になりましたが、私は変わらず出勤のまま。では、職場の対策は万全かというと、むしろひどくなりつつある。悪い意味で『コロナ慣れ』の状態です」
埼玉県在住の岡島万里子さん(仮名・30才)は、都内にある大手人材サービス会社のコールセンターに勤務。4月の初め、別の部署ではあったが、同じコールセンター勤務の同僚から新型コロナウイルス感染者が出たという。
「感染者と同じ部署の人たちは全員自宅待機、濃厚接触者とされた人は順番に検査を受け、結果が陰性であってもそこから2週間は経過観察。その上で症状がなければ職務復帰可能、という話でした。私たちも、もしかしたらうつっていないかと恐ろしい気持ちでいっぱい、仕事を休んだり、辞めた人もいました」(岡島さん)
ゴールデンウィーク明け頃までは、スタッフは戦々恐々としながらもなんとか仕事に励んでいた。そして、お互いの席の間にダンボール製の衝立が設置された。
「上司は、これで安心して仕事ができる、と得意顔でしたが、換気も十分じゃなく、広い一室に100名近くがいるので全然安心できない。でも、みんなだんだんその状況に慣れてきたのか、衝立を超えて話すことも多くなっています。別の上司は、コロナは風邪みたいなもの、みんな若いしコロナになっても大丈夫、と笑っている……。職場の入り口に以前はあった消毒液や除菌シートも、いつの間にか無くなっています。いつ感染爆発が起きてもおかしくない状況です」(岡島さん)