回数を重ねていくごとに評価が高まるタイプの作品、なのかもしれない。ドラマウォッチを続ける作家で五感生活研究所代表の山下柚実氏が分析した。
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ドラマ『竜の道 二つの顔の復讐者』(フジテレビ系火曜午後9時)に漂う独特の空気感に心を掴まれている視聴者も多いのではないでしょうか? 玉木宏と高橋一生が「奇妙な双子」として登場するこの作品。ミステリーというよりも人間ドラマとして画面に静かなる狂気が充満しています。人間の中に鬼がいて鬼の中に人間がいることを描き出したドラマ、とも言えるでしょう。
原作は白川道の未完の同名小説。双子の兄・竜一(玉木宏)は、異なる顔を手術で手に入れ名前も変えて別人になりかわり裏社会で生きてきた。一方、弟の竜二(高橋一生)は国土交通省のエリート官僚になった。すべては、親代わりの人を死に至らしめたキリシマ急便社長・霧島源平(遠藤憲一)に復讐するために。
……という筋立てですが、いくら徹底的に美容整形をして顔を変えたのだと説明されても、玉木宏と高橋一生が双子とは。全身の骨格や背格好など雰囲気が違いすぎ……と冷静に見比べる暇も必要もない。視聴者をぐいっと物語世界へ引き込み連れ去っていってしまう力技。視聴者は一気に物語の船に乗せられて沖へと漕ぎ出していく。むしろ、架空の世界に身を委ねる心地よさに包まれるドラマ、と言ったらよいでしょうか。
一般的に言えば、事件を描くドラマといえば謎解きがポイント。「犯人が誰か」が山場になります。しかし、このドラマは冒頭から復讐犯を知らしめる形でスタートしている。だから、犯人捜しについて時間をかける必要はない。その分、人間をじっくりと掘り下げる。生育歴、社会環境、影響を受けた出来事、葛藤といったプロセスを丁寧に浮き彫りにする。
素朴な少年だった二人が、人を殺める「鬼」にならざるをえなかったのはなぜか。純粋な真面目さゆえか。人間の哀しさと復讐にとりつかれた凄みとを、竜一役の玉木さんが体現しています。
「あまり固定概念にとらわれたくないという思いがあります。だから、『こういう役をやったから、ああいう役はやらないんだろうな』と思って見ている人を見返して、常にチャレンジしていると思ってもらえるように、仕事に臨んでいきたいと思います」(2020年8月11日「マイナビニュース」)と語っていた玉木さん。一期一会で竜一に全力投球しています。
一方、双子の兄と弟との対比もドラマの見所でしょう。
兄に比べてどこか常識人の色を残した弟を演じる高橋さんは、実にスーツが似合っています。官僚組織の中の一コマになりきるしぐさ、挨拶の腰の角度、他の官僚と一糸乱れぬ群れとなって移動する様子、特に大臣を前にしたプレゼンテーションのシーンは圧巻でした。
最新の自動運転技術についてパワーポイントを映して専門用語を並べてとうとうと語る、立て板に水のセリフ回し。まるで「役者」というやくざな稼業ではなく、本当にビジネスの現場にいる人みたいにリアル。その抜け目のない演技術に拍手を送りたい。