新型コロナウイルスの感染拡大を防ぐため、行動自粛が呼びかけられてからかなりの期間が経った。2019年より前とは違う生活を心がけるにあたり、疲れてきた人も目立つなか、諏訪中央病院名誉院長で長野県茅野市在住の鎌田實医師が、コロナ疲れを吹き飛ばす映画鑑賞法について紹介する。
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3月からの5か月間、自宅のある茅野を出たのはたった2回。取材や仕事の打ち合わせはオンライン、テレビやラジオの出演もオンラインで難なく行なっている。毎週のように講演会などで全国をまわっていた“旅暮らし”が、もう大昔のことのようだ。
浮いた時間、古い映画を見始めたら止まらなくなった。まず『モロッコ』。久しぶりに見たが、何度見てもすばらしい。90年前にこんな映画が作られていたなんて、信じられない。監督はジョセフ・フォン・スタンバーグ。外人部隊の基地があるモガドールという町に、傭兵としてゲイリー・クーパーがやってくる。マレーネ・デートリッヒが演じるのは食い詰めた歌姫。シルクハットのシルエットで登場するシーンは、実に美しい。
恋に落ちた2人だが、クーパーは鏡に口紅で グッドラックと書いて、砂漠の戦場へと去っていく。デートリッヒは、婚約を決めたお金持ちに別れのキスをして、砂漠に向かって歩き出す。勇壮な鼓笛隊に送られた兵士のあとを追って、ハイヒールを脱ぎ、灼熱の砂漠を素足で歩き始めるエンディングは実に見事だ。
デートリッヒはこの映画の後、大女優になっていく。アガサ・クリスティの『検察側の証人』を原作にした、ビリー・ワイルダー監督の『情婦』では、タイロン・パワーを相手役に、妖艶な美しさを見せつけている。