コロナ自粛の運動不足解消や「密」を避ける移動手段として注目を浴びる自転車。そんな中、世界に誇る自転車部品メーカーであるシマノの業績が堅調だ。“自転車業界のインテル”との異名をもつシマノとはどんな企業なのか。ジャーナリストの有森隆氏がレポートする。
* * *
フランスで開催される世界最大の自動車ロードレース、ツール・ド・フランス。新型コロナウイルスの感染拡大で延期となっていたが、8月29日から9月20日の日程で開催されることになった。ニースからパリまで総距離3470km。30の山岳コースの難関がある。
ツール・ド・フランスの走りを支えているのは、日本の自転車部品メーカーのシマノだ。変速機やブレーキといった構成部品のコンポーネントが、ロードパイクの走りを決めるからだ。シマノの最高峰コンポーネント「デュラエース」は、ツール・ド・フランスで高い使用率を誇る。2019年、ツールドに出場した22チーム中、16チームが採用。シマノに“乗った”選手が16勝をあげた。
ツール・ド・フランスの歴史を紐解くと、2005年、シマノ製部品を使用したランス・アームストロング選手が7連勝という偉業を成し遂げ(その後、同選手のドーピングが明らかになり記録抹消)、シマノの評価は欧州で不動のものとなった。その他、昨今の大規模なレースでは、シマノを選ぶ選手がじつに8割を占める。
スポーツ自転車向け部品で85%の世界シェア
シマノは自転車メーカーと誤解されることがあるが、完成車は扱っていない。世界中の自転車メーカーにブレーキ、ギア、変速機などを提供している、世界最大の自転車部品メーカーなのである。部品を個々に開発するのではなく、ブレーキから変速機まで1つのシステムとして作り上げてしまうところがシマノの特徴だ。
自転車レースの本場、欧州市場を中心とするレーシング部品では、永らくイタリアのカンパニョーロがトップとして君臨してきた。一方、シマノはブレーキレバーと一体型の変速装置を独自に開発。手元でより速く、確実にギア変速ができるように工夫した。
コンマ0.1秒を争うレースでは、速くて確実な操作が勝負を分ける。1990年代に入り、欧州のプロレースの上位に食い込むチームの大半がシマノのシステムを採用し始めたことから、シマノは世界的なブランドとして認知されるようになった。
スポーツ自転車向け部品でシマノは現在、85%の世界シェアを握る。変速機付き自転車でも約7割で、競合メーカーの伊カンパニョーロ、米スラムを大きく引き離している。カンパニョーロは変速ギアの他にホイールなども手掛ける高級自転車部品メーカー。スラムは未舗装道路でも走行できるマウンテンバイク用自転車部品メーカーとして名をあげ、その後、ロードバイク用部品に参入してきた企業だ。
シマノのシェアが高いのはレースの世界だけではない。自転車文化が根付いている欧州では、いわゆる“ママチャリ”と呼ばれる軽快車でも、変速機付きの車種であれば、ほぼシマノ製品が独占している。
シマノは「自転車業界のインテル」の異名を持つ。パソコンの頭脳にあたるCPU(中央演算処理装置)の多くが、世界的半導体メーカーの米インテル製であるように、自転車の中枢神経の部品の多くはシマノ製であることから、こう呼ばれる。ただ、「シマノ入ってる」というテレビCMはない。