どんなものにも愛好家は存在する。土地の「境目」が好きで、それが高じて多数の著書を著すほどになったのが、地理・地図研究家の浅井建爾氏だ。境界マニアである浅井氏に、東京23区の境目、「区境の魅力」について聞いた。
* * *
子どもの頃、地図を眺めるのが大好きでした。さまざまな地名を目にしているうちに、徐々に「いつかここへ行ってみたい」という思いを持つようになりました。そして20代のある時、自転車で日本一周することを思いつきました。今から50年も前のことです。
当時は舗装された道路がまだ少なく、国道ですら砂利道のこともありました。自転車で走破するのは体力的に大変でしたが、地図にあった地名を見つけるのが楽しくて、それほど苦には感じませんでした。
走っているうちに気づいたのが、県境を越えると、文化や生活習慣がそれぞれまるで違って見えてくるということでした。それが分かってくると、ますます面白くなり、県境を越えるたびに胸躍る興奮を覚えるようになっていったというわけです。
こうして県境を調べるようになりましたが、区境はその延長上にあるものです。県境に比べると、区境は境に面する当事者同士の争い事がそれほど多いわけではありませんが、ビルの中に区境があったり、境界が未定になっている場所がいくつもあったりと、区境なりの謎や魅力があります。