なぜか海外メディアによって、突如報じられた日産自動車とホンダの「経営統合説」。昨年、経産省が水面下で打診し、両社ともに拒絶したとの内容だ。真相はいまだ藪の中だが、「クルマづくりに関しては、それほど相性が悪いとは思えない」と指摘するのは、自動車ジャーナリストの井元康一郎氏だ。果たして「日産+ホンダ」の開発力を結集させると、どんなクルマができるのか。
* * *
世界の自動車業界でさまざまな提携、合併が巻き起こるなか、一部でささやかれていたのが、日産自動車とホンダの四輪部門の経営統合説である。
荒唐無稽な話かと思いきや、イギリスの経済紙フィナンシャルタイムズが昨年、経済産業省が両社に打診を行っていたという記事を配信。後追い記事を出したメディアも複数あったので、火のないところに煙は立たないというくらいの話はあったとみていい。
そのフィナンシャルタイムズの記事によれば、提案が行われたのは2019年末。両社とも役員会に諮る前に経産省の持ちかけを拒否したという。
うまくいかなかったのは至極当然のことだ。発行済み株式の4割以上を握るルノー傘下にある日産と、明確な大株主不在の独立色の強いホンダではそもそも経営統合の相手として相性が良くない。得意な市場がモロかぶりしているのも難点で、経営統合しても両ブランドを残すかぎり、得意なアメリカや中国で身内同士でパイを奪い合うことになるだけだ。
企業規模の調整も大変だ。ホンダの四輪部門+同部門の金融と日産の売上高はほぼ同じと考えられ、足すと24兆円前後になるだろう。一方でホンダ四輪+日産の従業員巣は30万人ほどに達する。33兆円で35万人を養っているトヨタに比べて人員過剰であることは明らかで、大規模なリストラは避けられない。
つまり、日産とホンダ四輪の経営統合話は経産省がコロナ以前から深刻な状況に陥っていた両社をくっつけ、日本のモノづくりを守ったという実績作りを通じて業界への影響力を強めたかったという程度のもので、実現性のきわめて低い机上の空論だったと言えるだろう。