映画史・時代劇研究家の春日太一氏がつづった週刊ポスト連載『役者は言葉でできている』。今回は、洋画の吹き替えやナレーションなど、声の仕事について語った言葉をお届けする。
* * *
下條アトムは海外ドラマ『刑事スタスキー&ハッチ』(日本では一九七七年に放送開始)で主人公のスタスキー役の吹き替えを担当。以来、声の仕事でも活躍するようになった。
「ちょっとドラマの仕事が少なくなった時にたまたまオファーがあったんです。
でも、やってみたらできない。声優さんの中に入って主役をやらせてもらったんですが、とてつもなく難しかったんです。それで居残りで汗だくでやりました。
それが面白かった。できないから、面白いんです。上手くやろうというのではなく、とにかく表現したいことを懸命に一つ一つ積み重ねていきました。そうやって面白がりながらやることが、表現者としてのベースにあると思います。
それから、才能は人が見つけてくれる。『下條さんは声がいい。マイク乗りがいい』って、その時言ってもらえたんです。『マイク乗りだけで仕事になるんですか?』と聞いたら、『それが大事なんだ』と。
そうやって、自分が行きたい方向とは違った線路でも、人が僕のために敷いてくれた、周りが見つけてくれた才能なのだから、大事にしないといけない。所詮、自分がやりたい仕事だけをやって生きていけるわけではありませんから」
フジテレビの「ゴールデン洋画劇場」で放映されたエディ・マーフィ主演作では、エディ・マーフィの声を担当している。