安倍首相は大叔父・佐藤栄作首相の連続在任記録(2798日)を抜いた。その佐藤は沖縄返還を成し遂げ、日本人でただ1人ノーベル平和賞を受賞しながら、「大宰相」と呼ばれることはあっても、「名宰相」との評は少ない。なぜか。
佐藤政権は日本の転換点にあたり、内政では公害や住宅不足など高度経済成長の歪みに直面し、外交では米国との関係に苦しみながら国を運営した。時代の転換点に総理の任にあるという点は安倍も同じだ。大叔父の政治は姪孫と何が違い、どこが似ているのか、政治ジャーナリスト、武冨薫氏がレポートする。(文中一部敬称略)
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佐藤の退陣表明会見(1972年6月17日)の異様な状況はテレビで生中継された。
「出てください。構わないですよ」。テーブルをドンと叩く。内閣記者会の記者が「出よう、出よう」と全員退出すると、1人残った佐藤はテレビカメラに向かって「国民に告ぐ」という退陣の弁を語り続けた。
翌日の日記に、佐藤はこう書いている。
〈昨日の今日の事で、各社朝刊は一斉に小生の批判の記事で紙面をつぶす。いつまでつづく事やら〉(『佐藤栄作日記』)
マスコミ嫌いで知られ、寡黙ながら威厳のある総理だった。大蔵官僚時代に佐藤内閣の官房長官秘書官を務めた藤井裕久・元財務相が語る。