今年8月、ロシアのプーチン大統領に反対してきたアレクセイ・ナワリヌイ氏が毒殺されそうになった事件の真相解明はできるのか。これまで何度もロシア当局の関与が疑われる暗殺事件が起きたが、公正で透明な捜査はロシア当局によって阻まれてきた。ロシア情勢をはじめ国際政治・国際問題に詳しいジャーナリストMichael Curtis氏がリポートする。
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毒は常に真剣な脅威である。クローディアスはハムレットの父親の耳に毒を注ぎ、毒入りワインでハムレットを殺そうとした。ロミオは、ジュリエットが死んだと思い込んで服毒自殺した。そして、クレオパトラはコブラの毒で死んだ。
8月に起きたナワリヌイ毒殺未遂事件は、現代も毒が権力批判者への攻撃に使われている例であり、クレムリンの関与が疑われる批判者攻撃の最新事例だ。プーチン大統領が支配するロシアは、腐敗や悪政で知られる中世イタリアのボルジア家のようだ。
弁護士でもあるアレクセイ・ナワリヌイ氏(44) は、プーチン政権への反対派の主要メンバーであり、これまで大統領に対する抗議行動で13回も投獄されている。彼は地方政治と国政の両方で活躍している。2013年にモスクワ市長選に出馬し、彼自身が不正な選挙だと訴えたなかでも27%の票を得た。2018年には大統領選挙に立候補しようとしたが、中央選挙管理委員会によって不適格と判定された。
ナワリヌイ氏がプーチン大統領に挑戦して以来、彼の電話やメッセージは傍受され、どこに行っても尾行され、ビデオに録画され、警察の捜索を受けることもしばしばだった。彼の視力は、何者かに投げつけられた化学物質によって不治の損傷を受けた。2019年10月、裁判所はナワリヌイと彼が設立した反政府団体に対して起こされた訴訟で、8800万ルーブルの賠償を命じたが、原告となった企業は「プーチンのシェフ」と呼ばれるレストラン経営者であり、2018年のアメリカ中間選挙に介入した疑いを持たれている人物だ。
その他、ナワリヌイ氏はかつてメドベージェフ首相を海外メディアで告発したり、今年8月のベラルーシ大統領選挙を批判したりと、プーチン政権とことごとく対立してきた。
今回の暗殺未遂で明らかになっていることは、彼がシベリアのトムスク空港で、8月20日のモスクワ行きフライトの前にカフェで温かいお茶を飲んだ。そして機中で体調を崩し、激痛を訴えた。緊急着陸したオムスクで病院に搬送されたが、医師は当初、低血糖による代謝障害であると診断し、彼の尿には毒物の痕跡がないとした。そして数日間、彼は医師から出国を禁じられ、解毒剤として使われるアトロピンを投与された。出国が遅れたのは、毒物の痕跡を消すためだったのではないかと疑われている。
ナワリヌイ氏はその後、ドイツの支援者の助けでベルリンに運ばれた。そこでの検査で、コリンエステラーゼ阻害剤の痕跡が見つかった。この化学物質は神経系に障害を起こす。結論を急いではならないが、ドイツの医師たちは、この物質が過去複数回にわたって、ロシアが関与したとされる毒物事件でも使用されたことを指摘し、過去に見つかった物質と比較することを提唱している。