映画史・時代劇研究家の春日太一氏がつづった週刊ポスト連載『役者は言葉でできている』。今回は、北野映画に親子二代にわたって出演できた思い出や役者としてのキャリアが50年以上になったことについて語った言葉をお届けする。
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下條アトムは二〇一五年、北野武監督の映画『龍三と七人の子分たち』に出演、他のベテラン俳優たちが善役を演じる中、下っ端の悪役で存在感を発揮している。
「親父(下條正巳)が北野監督の映画に出ていて、その時に物凄く喜んでいたんです。二代に亘ってお仕事できるのは嬉しいので、親父の墓前に報告に行きました。そのくらい嬉しかった。
役柄としては、ホンに書かれていないことで『これやってよ』とか監督に言われて随分と増えたんです。真夏の名古屋でバスを追いかけて走ったりとか、そういう僕がバカなことをやっているのを楽しんでくれたのかもしれませんね。その場の空気を大事にされる方で、アドリブに近い。台本はもちろん読んでいきますが、現場でいきなり『こうやって』と言われますから。監督も、ああいう役は好きだったんでしょうね。最後に殴られるところも、台本には全くなかったんです」
近年では役の大小、作品の規模、ギャランティを問わずに作品に出るようにしているという。
「下條アトムというと、こういう役だよな──というありきたりな定番じゃなくて、全く違うところから僕を見てくれる人たちがいます。それに僕は応えたい。オファーがあればギャラは二の次で出させてもらってます。
なんだか分からないオファーでも、なんだか分からないから面白い。前は嫌でしたよ。たとえば『大手じゃなきゃ嫌』とか。普通の人間ですからね。なんでこんな人がこんな売れてるんだろうとか、ジェラシーこいたり。助演男優賞をとりたいと思っていた頃もありました。そういう、非常につまらない、情けない哀れなところで一丁前に悩みましたよ。
それが、今では『なんだか分からないから刺激があって面白い』と思うようになったんです」