世界最強のアメリカ軍は、どの分野でも世界最先端の兵器を持つことを目指している。精鋭部隊である海兵隊であれば、なおさらそうした願望は強いはずだ。しかし、兵器の機能面だけを見て最新型を欲しがるのは、世界共通の軍人の悪い癖でもある。人権法や外交問題に詳しいジャーナリストAndrew Harrod氏は、海兵隊の新型ヘリ計画を批判する。
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アメリカ海兵隊は新型の大型輸送ヘリコプターCH-53K(愛称:キングスタリオン)の配備を望んでいるが、共和党のジョシュ・ホーリー上院議員は、「たとえばCH-47(愛称:チヌーク。訳者注:ベトナム戦争当時から現在まで改良を重ねて現役で活躍する輸送ヘリで、自衛隊にも配備されている)より高い価格を正当化するだけの能力があるのか」と疑問を呈しており、Popular Mechanics誌は2017年に、「キングスタリオンは驚くほど高価だ」と評した。しかも、海兵隊は現在、アフガニスタンのような水陸両用の能力を必要としない環境で戦い続けているため、よけいに物議を醸している。
海兵隊はキングスタリオン200機を310億ドル (1機当たり1億3850万ドル) で購入したいと考えているが、この価格は2016年から2017年の間に1億3120万ドルから値上げされており、最新鋭のステルス戦闘機F-35Bの1機当たり1億2280万ドルよりもかなり高い。キングスタリオンは、2006年に開発着手され、2015年に実戦配備される予定だったが、現在では2023年から2024年まで延期されている。
キングスタリオンの原型であるCH-53は1966年に海兵隊に導入され、1974年には現在のCH-53E(愛称:スーパースタリオン)が登場した(当時の価格は1機6100万ドル)。新型のキングスタリオンは世界で最も強力な重揚力ヘリコプターのひとつであり、吊り下げ能力はスーパースタリオンの3倍である。全長99フィート、満載重量44トンは米軍でも最大・最重量のヘリコプターになる。
海兵隊と、製造者であるロッキード・マーティン系のシコルスキー・エアクラフト社は、キングスタリオンだけが海兵隊の求める要件を満たしていると主張する。これは、その輸送能力や航続距離などを指すが、これらの基準は、部隊が島嶼やバージのような特殊な戦場で広大な範囲に展開するという海兵隊の太平洋戦略を念頭に置いたものである。
しかし、海兵隊のロバート・ネラー総司令官は、2019年にホーリー上院議員との会話で、キングスタリオンに大きな不満を表明していた。それを受けて国防総省も、キングスタリオンはチヌークと併用していく計画に変更した。新型のチヌークは、輸送能力においてキングスタリオンに迫る性能を有しており、NATO(北大西洋条約機構)8か国をはじめ20か国ですでに運用されている。こちらのほうがはるかに実績があるし、維持コストも安い。一方で、スーパースタリオンには安全上の懸念も指摘されており、それがキングスタリオンになって解消されるかは未知数である。