母はシャッターチャンスをけっして見逃さない
母の方はカメラもケータイも興味なし。ハナから理解する気もないので、流行りのオンラインビデオ通話でも抵抗やてらいなく、笑顔で話す。柔軟というのか、得な性格だ。
でもモモちゃん愛は父にも負けない。残念ながらモモちゃんは6年前に母がサ高住へ転居する際に泣く泣く里子に出したが、認知症が進んだいまも毎日のようにモモちゃんのことを話すのだ。
驚くことがもう1つ。一昨年前の冬、家族でドライブ旅行へ行ったときのことだ。走る窓の外は東北ののどかな田園地帯。うっすら雪化粧した山並みも旅情豊かで、私がスマホで写真を撮りまくっていると、母が唐突に叫んだ。
「あっ、モモちゃんよ! 写真撮って! 早く早く」
状況からして母の妄想に違いないと思ったが、あまりに急かすので母が指さす方を見ると、なんとモモちゃんそっくりの雲が、山の上に顔を覗かせているではないか。とにかく私は必死にシャッターを押し続け、走って角度が変わるにつれてモモちゃんの姿はただの雲になった。車内一同、驚嘆の嵐。母が決定的チャンスを捉えた写真はプリントして、わが家と母の部屋に誇らしく飾ってある。
※女性セブン2020年9月17日号