認知症の母(85才)を支える立場である『女性セブン』のN記者(56才)が、介護の日々の裏側を綴る。今回は、写真にまつわるエピソードだ。
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生前、父がケータイでいちばん楽しんでいた機能は「カメラ」かもしれない。かわいがっていた愛犬モモちゃんの写真がたくさん残っていたが、どれもピントがずれたり半分しか写っていなかったり。決定的瞬間を捉えるのは、なかなか難しい。
「かわいい!」と思った瞬間に撮りたいけれど…
7年前に亡くなった父のケータイには、驚くほどたくさんの写真が残っていた。父もおそらく認知症で、勇んで買ったケータイもなかなか使いこなせずに苦戦していた。日がな一日ケータイをいじって研究していたのだろう。時々おかしなメールが届いたりもしていた。
なかでも父を夢中にしたのはカメラ機能。試し撮りの格好の被写体は愛犬の“モモちゃん”だった。年を取ってから飼い始めたので、まさに“目に入れても痛くない”かわいがりよう。モモちゃんが何をしても、どんな表情でもいとおしいのだ。
しかしながら、父のケータイ撮影の腕前はイマイチ。ピンボケやモモちゃんが半分画面から外れているものもある。撮ろうと思って慌ててあちこち押した結果だろう。ただ、気持ちは伝わってくる。「いまこの瞬間を残したい!」と、夢中でシャッターを押したのだな…と。
ふと古いアルバムにあった母が若い頃の写真を思い出した。もちろんモノクロである。何か面白いことがあったのか、両手で口を押さえて大笑いし、ものすごくブレている。私が生まれる前の新婚時代に父が撮ったものだ。
昔は「なぜこんなブレブレ写真を取ってあるんだろう」と思ったものだが、そうか、この瞬間を残したかったのだ。きっとモモちゃんにレンズを向けたときのようにキュンとしたのだろう。